「…菜々緒さん」
「なんですか」
「いいでしょう」
「嫌です」
「何故です」
「何故でもです」
「いいじゃないですか。私たちは晴れて恋仲となったわけですから」
「よくないです」
「…」
「そんな目をしても嫌なものはイヤ」
興味なさげにぺらりと毎月購読している雑誌を一頁捲る。佐々木さんが恋仲といったときに赤面しそうになるのを抑えて。
現在その恋仲の私たちは私の家でゴロゴロデート中です。ええ。確かに私たち思いが通じあいました。これを世間でいうカップルだというものだと思います。
だけど、付き合ったからと言って何が変わるのだろう。甘い雰囲気になる?いいえ?いつも通りです。触れたくなる?いいえ?身の危険を感じます。
確かに私は佐々木さんが好きだ。悔しいけど、めちゃくちゃ好き。それだけは確かなんだけどねー。
話は戻り、佐々木さんは何をこんなに頼んできているかというと…
「何故、膝枕をしてくださらないのですか」
「貴方自分が何を言っているか分かってるんですか。自分のキャラをちゃんと保ってください。あなたが言ってることはただの変態発言です」
「変態?何故ですか。私と菜々緒さんは先日よりお付き合いをしている仲ではありませんか。貴女は確かに私のことを「好き」と仰いまし…」
「う、うるさいな!」
「何を赤くなっているのですか。そんな顔をしてもただ可愛いだけです。ただ私を興奮させるだけなのですよ」
「ホント黙ってくんないかなこの変態!」
口を開けばこれだ。こんなのうちのゴリラ局長と何ら変わりはない。はあとため息を吐きまた一頁捲る。あ、この服可愛い。
「……」
「って黙って膝に頭のせないでよ!甘えん坊かあんたは!!」
「そうです私はただの甘えん坊のエリートです」
「甘えん坊のエリートってなんだ」
「…貴方の前では"私"を演じずにすむ。何も考えなくてもすむのです」
「……佐々木さん?」
額に腕を乗せている佐々木さんの表情は見えないけど、なんか、悲しそう。
私は雑誌を置き、そっと整えられている佐々木さんの頭に手を置いた。
「どうしたんですか。弱音を吐くなんて、佐々木さんらしくないですよ」
「…そうですね」
「きっとまた仕事ばっかで疲れがたまってるんですよ。仕方ないので無償で私の膝を貸します」
「だから、今くらい休んでください」と頭を出来るだけ優しく一撫ですると顔から腕をよけて真っ直ぐ私を見上げる。
とても、優しい目で。
「やはり私は貴女でなければいけないようです…菜々緒さん」
「佐々木さん?」
「どうか、名前で呼んでいただけませんか」
「……い、さぶろう、さん」
「………菜々緒…」
軈て、静かな寝息をたてる佐々木さん。よほど疲れていたのか、私に心底心を許してくれているのか。
…後者なら、嬉しいな。
片目に掛けているモノクルを静かに外してテーブルに置く。整った佐々木さんの顔にときめいたのは私だけの秘密だ。絶対本人には言わない。
(てか、足、痺れたああああああ)
(早く起きろおおおおお)
悶える姿が面白くて狸根入りをしていた佐々木さんに強烈なアッパーカットがきまったのは、数十分後の話。