目が覚めると、薄暗い部屋の中に転がっていた。起きようにも手足がロープでがっちり縛られていてまともに動かせない。ひんやりと冷たい床が私の体の熱を奪い、思わず身震いをした。
「ここは……」
「気が付いたか」
頭上から聞こえてきた野太い声の方を見上げると、そこには一人の男が立っていた。
「オメェも運がなかったようだな。あの佐々木の知り合いだからこんなことになるんだぜ?」
「どういう、こと?」
「俺らは攘夷志士。それだけ言えばわかるだろ?」
「…私は、人質ということですか」
「物分かりが早くて助かるぜ」
彼はこうなった経緯を話し出す。彼は攘夷志士のとあるグループの一人で、見廻組に粛清されたうえ仲間を半数殺されてしまったことへの恨みからこのような行動にでたという。佐々木…どれだけ私に迷惑をかければ気が済むんだ。いい加減にしていただきたい。私が捕まったのも佐々木さんのメールを返していたから敵に気付かなくて逃げ遅れたというのに。どう落とし前をつけてくれる気だろう。
「俺が一人ここにいるのはある役目があるからだ」
「役目…?」
「中継係さ」
は、中継?その言葉を理解したのは少し離れたところにあるスクリーン状のテレビ画面だった。何も映されていなかったそれにスイッチを入れたのか、そこにはいつもの寝ぼけた佐々木さんの顔が映し出されていた。
「おい佐々木!この女の顔に見覚えはねえか?」
≪おや、菜々緒さん。そのようなところで何をされているのですか≫
「誰のせいだ!」
≪私のせいですか。それは申し訳ありません≫
「何ふざけたこと言ってんだ!こいつがテメェの女だっていうことは知ってんだぞ!」
≪私の、女?≫
画面の中の佐々木さんが顎に手を置き、考えるポーズをとる。しばらくその恰好で何かを考え、また姿勢を正す。
≪その方は私の女ではありませんね≫
「なんだと…!?嘘ついてんじゃねえ!」
≪嘘ではありません。彼女は人質として何の効力ももちませんよ。捕まえておいても無駄というものです≫
つらつらと並べられる無機質な言葉に心が抉られていく。私は佐々木さんにとってそんな程度の人間だったということだ。冗談のように好きだなんだと言っておいて人質に取られても動揺も焦りもしない、あまりにも無反応だった。信用しなくてよかった。本気にしなくて良かった。もう少しで…彼を好きになりそうだった。
「じゃあ、殺しても何の問題にもならないっていうことだな?」
≪……≫
「さすが三天の怪物様だな。ここまで冷酷な人間だとは思わなかったぜ。…よく見てろよ、テメェのせいで一人の女が死ぬんだ」
私に定められた照準。攘夷志士は口角を上げ、楽しげな表情をしていた。
「俺を恨むなよ、女ァ。恨むならあそこの局長様を恨むこった」
そうだようね。恨むべきはあの冷酷非道見廻組局長様だようね。なのに、なんでだろう。なんで…心の底から怨めないんだろう。
答えはもう、分かっている。
遅かったんだ。私はもう…あの人の事が……
銃声が、鳴り響く。
05 ありえないほど無反応