あの後、教室を出た高杉くんは依然私の腕を掴みながら街まで来た。平日の午前だけあって帰宅時より人通りは少なく、平和な暖かい風が通り抜ける。しかし私の状況はまったく平和ではない。もしかしたら命にも関りかねない。未だに高杉くんがどこに向かおうとしているのか分からないからだ。


「高杉くん」
「あ?」
「本当にどこに向かってるんですか…?」


未だに抜けきらない敬語。それが気に入らないのか舌打ちを鳴らす。それにまたびくり、と反応する私を尻目に高杉くんは答えた。


「別に」
「……はい?」
「別に目的になんざねえ」


ぽかん。おそらく私はそんな効果音が似合う顔をしているに違いない。目的地がないのに私に付き合えと脅し、拉致をして街まで来たのか。ますます高杉晋助という人物のことがわからなくなった。じゃあ、これからどこに行こうというのでしょうか。


「……」
「……」


何故か訪れた沈黙。私はどうすることも出来なくてじっと高杉くんの顔を凝視した。よく見れば見るほど高杉くんは綺麗だなと思った。男の子に綺麗って表現おかしいかもしれないけど、高杉くんは本当に綺麗だとこの状況で思った。まつげだって私より長いし鼻だって高くて筋が通ってるし、切れ長の眼も色気がある。って私は何を考えてるんだ。コレじゃ変態じゃん!
そんなことを悶々と考えていたとき、ぐうと一鳴き。私のお腹からだ。私達が中断して出てきた授業は4時間目の国語。丁度お弁当時だった。私はあまりにも恥ずかしくてずっと見ていた高杉くんの顔から視線をはずし、地面を見た。顔がめちゃくちゃ熱い。多分真っ赤だ。本当、この場から速く立ち去りたい気持ちに駆られる。だけど未だに高杉くんが私の腕を掴んでいるからそれはかなわない。せめて何か言ってください。


「くっ」
「!」


わわわわわ、笑われた!高杉くんは私の腕を掴んでいない左手を口元に持っていき、続けざまにくくっと咽で笑った。私は恥ずかしくてさらに顔を赤くして下を向いた。



「あのベンチに座ってろ」
「へ?」


そういって高杉くんが指差したのは公園のベンチ。なんで?と聞こうとしたときには腕から手を離されていて、見えたのは高杉くんの背中だった。


「た、高杉くん!?」


私が慌てて名前を呼んでも高杉くんが振り返ることはなかった。私はどうしようもなくなってしまったので取り敢えず言われたとおりベンチに腰を下ろすことにした。そしてふう、と息を吐く。……高杉くん、どこ行っちゃったんだろう。高杉くんと関って知ったけど彼は思ったよりも数倍横暴だと思う。お前の意見はきいてねえ。拒否はみとめねえ。何かそんな感じ。それでも悪い人とは思えないのは何でだろう。頭に浮かんだのはさっき笑っていた高杉くんの顔。普通の男子高校生だなあ、って思った。それに高杉くんはそろばん塾にも通っている。何気にいい子なんじゃないかとも思った。
そんなことを考えていれば前から高杉くんが歩いてくる姿が見えた。その手には一つのレジ袋が握られていた。


「ほらよ」
「わっ」


私に向かって投げられたのはおかかのおにぎり。もしかして、私がお腹へってルッて分かって買ってきてくれたのかな。手に握られているおにぎりを見つめた後、顔を上げた。


「あ、ありがとう」
「あんなに盛大に腹ァ鳴らすくれェ腹減ってたんだろ?」


にやり。高杉くんは意地悪く笑った。さっき実は高杉くんっていい子なんじゃないかと考えていたのがばかばかしくなった。むっ、っと顔を顰めれば高杉くんはまた咽で笑う。そして高杉くんはレジ袋から自分の分を取り出した。それは、おでんだった。え、


「おでん……?」
「食いてえのか?」
「あの、いま、夏ですよね」
「だからなんだよ」
「……暑くないんですか」
「あ?熱いにきまってんだろ、おでんだから」
「そうじゃなくて……」


なんか、高杉くんという人間が更によく分からなくなった。


「文句あっか?」
「いえないですごめんなさい」


私はこれ以上詮索しないことを決め、高杉くんがくれたおにぎりを開封して一口食べた。うん、おいしい。


「……」
「……」


お互い空を何の気なしに見上げながら自分の手元にある食料を口に詰める。空には名称は分からないけど小さな鳥が3匹仲良く飛んでいた。それをボーッと眼で追う。隣からはふーふーと息の音。ふと隣に視線を移せば大根を息で冷ましている高杉くんの姿があった。
あまりにも似合わない行動に私は思わずぷっと吹き出してしまった。高杉くんはそんな私を睨んだ。


「なに笑ってんだよ」
「いや、なんか、可愛いなと」
「ぶっ殺すぞ」
「本当スイマセンでした」






今日、私は人生で初めて授業をサボりました。今まではサボり方を知らなかったから。こうして公園でボーッとしながらおにぎりとおでんを食べる。そんなサボり方あったことを初めて知った。これも悪くないな、と思いました。

……作文?




少し、意外な一面。



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