いよいよ学校祭の準備が本格化してきた。私はこの期間が一番青春を感じる。
みんなで協力してひとつのものを作る。それはつまり、志同じくして尽力していくこと。そうすれば自ずと絆が深まっていくもので。そこで恋愛が織り交ざっている人もいると思うけどそんなの私には関係ないリア充できるだけ苦しんでシネ。
何が言いたいかというと、皆で協力することは美しきことだよね。
「おーい蓮、印刷室から画用紙取って来なせェ」
「自分で取りに行けやクソドS野郎」
「蓮、脚立もってこい」
「自分で持ってこいやクソニコ中」
「蓮ちゅあーん!お妙さんってなんであんな美人なんだろうね!!」
「生まれつきだシネクソゴリラ」
「俺だけあたり強すぎないィィィ!?」
「蓮ーお腹空いたアル弁当よこせヨ」
「自分の食べてください。ていうかお前らァァァ人を頼りすぎだバカヤロー!!」
うちのクラスの人協力って言葉知ってる?二言目には蓮、蓮って…私はドラ○もんか!!
「だって…なあ?」
「なにがなあ?なの?私には全然わからないよ、え、なんでみんな頷いてるの?打ち合わせでもしてきたの?」
「蓮は利用しやす…げふん、頼りになるんでさァ」
「今完全に利用しやすいって言おうとしたよね。ねえ、こっち向けェェェ!」
私はもとよりこんな激しいツッコミをする子ではなかった。どっちかというとこのクラスの中では郡を抜いて大人しかったと自負している。
私をこんなツッコミ体質にしたのはこのボケたちだということも理解している。なので最近は諦めてきている。
「ねえ、蓮ちゃん…ちょっと買い出しに行ってもらいたいんだけど…」
「君までもか、山崎君。君だけは信じていたのに」
「だって…!ほかの人に頼んだら半殺しにされるじゃん!」
…まあ、否定はしないけどね。
「…はあ、わかったよ」
「なんで山崎の言うことだけ聞くんでィ。さてはお前、山崎のこと…」
「変な勘ぐりしないでくれますか。その“…”がウザイ」
「あ、これ買い物リストなんだけど…ちょっと荷物多いからもうひとり連れて行ったほうがいいかも…」
「もうひとり…」
って言っても、誰か買い出しについてきてくれそうな人いる?いないね。360度見渡してみたけどそんなやつこのクラスには一人もいねーよ。
「いや、ひとりで行く。寧ろ一人の方がいい」
「いやいや無理だって」
「無理とか言わないで。諦めたらそこで試合終了です」
「試合とかじゃないからこれ。ちょっと落ち着いて」
「私はいつでも落ち着いています」
だけど冷静にリストを見ると木材とか結構大きなものが多い。たしかに…これを一人じゃ辛いかもなあ。
そう思いながら視線を上げると、作業している生徒から離れて携帯を弄る高杉くんの姿が目に入った。
…いやいやいや、ないよね。絶対無理だよね。もう最初からわかりきってるよね。
でもでも、ヒマそうな人は高杉くんしかいない。沖田とかそこらへんはヒマそうだけど論外。
…うん、一回だけ、一回だけ誘って断られたら速攻土下座して謝ろう。
「た、高杉くん」
「あ?」
「ちょっと買い出しに付き合ってくれたり…とかしてくれない…かなあと」
「……」
高杉くんはじーと私を見つめる。え、睨んでるの?それに睨んでんの怒ってんの?
もうそろそろ土下座の体制に入ろうとしたとき、肩を後ろからポンと叩かれた。
「おい蓮、お前が三回まわってわんって言ったら俺がついててやってもいいですぜェ。どうせ高杉は行かねえだろィ?」
はい再びドSの登場ー。握りこぶしを作りながらも恨めしい目を沖田に向ける。こいつにだけは絶対死んでも頼むか。でも高杉くんも無理っぽそうだし…
「…行ってやらァ」
「え?」
「行ってやるって言ってんだよ」
「…あらら、どう言う風の吹き回しでィ」
「どうもしねーよ。行くぜ、西藤」
そう言うと、高杉くんは椅子から立ち上がりスタスタと入口まで歩いて行った。私は状況についていけず、数秒固まったが、慌ててその背中を追いかけた。
高杉くんは入口前でこっちを振り返って待っていてくれた。そんな小さな優しさに少しキュンとした。なんだ、キュンって。
そばに寄ってきた私に視線を向けたあと、少し後ろの方を見る高杉くんを不思議に思い首を傾げた。
「?高杉くん、どうしたの?」
「…なんでもねえ。さっさと行くぞ」
「う、うん」
高杉くんと沖田がにらみ合っていたことに、私は気づけずにいた。