怪しい人物の犯人は何とめ組のお頭さんだった。放火魔を捕まえるために来たのかと思えばその、え、エロ本を捨てに来ただけだった。その本に反応を示す銀時にとりあえず一発お見舞いしてやった。




「それより、オメェこそここでなにやってやがった?まさかまた余計なことを…」

「エロ本ジジィに何言われようと俺は火消を辞めるつもりはないんでね」

「辞めるもクソもテメーみてぇな小娘が必要とされてないのがわかんねーのか?」


二人の口論が始まり、私はどうしたものかと不安げにみている。

内容を聞いていれば辰巳ちゃんの両親は火事で命を落としてしまったらしく、それから辰巳ちゃんを救出したお頭さんが親代わりをしていたという。

そんなお頭さんに火消になって恩返ししたいと訴える辰巳ちゃん。しかしお頭さんはその思いを突っぱねる。




「てめーをここまで育てたのは愛情でもなんでもねェ。親を見殺しにしちまった罪滅ぼし以外の何物でもねーよ」





もしもその言葉を本気で言っていたとしたら、私はここから走り出して一発殴っていたところだ。だけど、それができなかったのは、お頭さんの瞳の奥が、寂しげに揺れていたからかもしれない。

銀時はどう思っているだろうとふと視線を向けると、エロ本片手に鼻に指を突っ込む夫の姿があった。





「銀時くーん?一体君は何をやってらっしゃるのかな?」

「いやあ、本読んで勉強しようと」

「んなことしなくていいわ!!」

「そこの君」



突然声をかけられ、二人同時にそっちに顔を向ければ、メガネをかけたおじさんが怪しげに立っていた。



「今日は燃えるごみの日のはずだ。何故エロティックな本が捨ててあるんだ?」

「決まってるだろ。読んだら燃えるからだ」




何を言っているんだコイツは…!もう一発決めてやろうかと握り拳を作ったとき、パチパチと何かが燃える音がした。





「わたたたたた!!」





燃えていたのは銀時の持っていた本だったようで、慌てて本を地面に落とした。

あろうことかおじさんは油のようなものを周りにかけると火をつけた。

一瞬にしてあたりが火で囲まれる。咄嗟に腕を引っ張ってくれた銀時のおかげで火が着物に燃え移ることはなかった。





「あいつが放火魔か!」

「オイ待てコラァ!!」




「どけェェェェ!」とそばにあった消火器で火を沈下する辰巳ちゃん。火が消えた途端に銀時は走り出し、犯人を追いかけていった。銀時が行ったんだ、犯人は絶対につかまる。
一人そう確信しているうちに火は民家に燃え移ってしまったようで中に取り残されたおじいさんに向かって避難を呼びかける。

しかし歳のせいか、耳が遠いうえボケが始まっているおじいさんは何も起きていないふうにシャボン玉を膨らませている。

そんなおじいさんを助けるため、辰巳ちゃんが中へと入って行ってしまった。




「辰巳!!」

「辰巳ちゃん!!」




舌打ちをしたお頭さんはそのあとを追うように走って追いかけていった。私一人がこの場に立って見守っているだけなんて、なんて無力なんだろう。
私にできることをしなきゃ。被害のない民家に入り、すぐめ組に連絡するよう呼びかけた。

そのあと数分でめ組は到着したけどなんせ木造の民家。火の周りがあまりにも早すぎる。
まだ辰巳ちゃんとお頭さんはこの火の家のなか。

このままじゃおじいさんも二人も……!そんな最悪の結果を頭で想像してしまい、勢いよく頭を振った。

どうしよう、私じゃどうすることもできない。


………銀時…っ!




「朱鶴!!」

「銀時!」

 


犯人をとっ捕まえてきた銀時が私の名を呼んだ。それだけで安心する心。だけどいまは二人を…!




「辰巳ちゃんたちがまだ中にいるの!」

「……朱鶴、お前はここで待ってろよ」




それだけ言うと、銀時は消防車の梯子をつたって上って行った。
銀時と入れ違うように中から出てきた辰巳ちゃんに駆け寄り、肩を抱く。




「大丈夫!?」

「俺は、大丈夫。だけどっ、頭が…親父がまだ中にいるんだ!」

「……大丈夫、大丈夫だよ」



混乱している辰巳ちゃんの頭を抱えて、抱きしめた。





「銀時が、必ず助けてくれるから」










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