「最近、どう?」
近くの茶屋にて、三色団子を一口食べた総悟にそう質問した。私は手に持つ熱いお茶を両手で包みながら答えを待った。
「まあまあ…ですかねィ。そーゆー朱鶴姉はどうなんですかィ?」
「私もまあまあ。相変わらず仕事は少ないけど、生活する分には問題ないしね」
家賃は払えてないけど。と呟けば総悟は呆れたように溜め息を吐いた。
「俺はマジで不思議でならねェ。何で旦那を選んだんですかィ?」
何で…と聞かれて私はこれと言った理由が直ぐに出てこなかった。好きだからっていうのは大前提だし、気が合うからとかそう言うのもあるし。だけどもっと簡単に言い表すなら…。
「ずっと一緒に居たいって…思っちゃったからかな」
「……」
あの小さな田舎で倒れた銀時を居候させてから、ずっと一緒に生活して、楽しいことや辛いことを共用してきた。
銀時と一緒だったら何でか自然と笑顔になれるし、心が満たされる。
この感情は人間が“恋”と呼ぶものだと気づいたときから、銀時は私にとってかけがえのない存在になった。
「仕事もろくにしないでグータラしたマダオだけどね」
それでも誰よりも優しいとことか、守ってくれる強さとか、気の抜けた笑顔とか。銀時の良いところは沢山ある。
「大切、なんだよねー…」
誰よりも。
「……叶わねーや」
「総悟?」
「そんな幸せそうな顔して言われたら何も言えねェ」
総悟は少し寂しそうな笑みを見せると食べ終わった串を皿に置き、私に目を向けた。
「本来なら旦那みたいな野郎はぶった斬ってまさァ」
「ぶ、物騒な…」
「だが、朱鶴姉にそんな顔させるくらいだ。旦那は思ってるほど駄目野郎じゃないってわかりやした」
それで十分でさァ、と言った総悟はお茶をずずっと音を立てて啜った。
「総悟…ありがとね」
「俺ァなにもしてませんぜ」
してくれてるよ。沢山。その思いを込めて少し高めにある総悟の頭を撫でる。そしたら昔みたいな少し照れた笑顔を見せてくれた。
「何かあったら俺に連絡くだせェ。旦那殺りに行くんで」
「銀時絡みのみですか…」
「勿論暇な時でもいいですぜィ」
はいはいと軽く返事をすれば総悟は少し拗ねてしまった。それが可笑しくて声を出して笑えば総悟も呆れたように笑ってくれた。
「おっとこんな時間だ。そろそろ戻らねーと土方コノヤローに怒鳴られちまう」
「十四郎も相変わらずね」
総悟はポケットから小銭を出して座っていた長椅子に置き、刀を腰に差しながら立ち上がった。
「相変わらずのマヨラーでさァ」
「ほんっと変わらないね!」
「……朱鶴姉は変わりやしたねィ」
突然の総悟の言葉に私は笑うのをやめて目を見開いた。私、変わった?昔の自分と照らし合わせてみるけど相違点はあまり見当たらなかった。
「髪も伸びやした、すげー綺麗に…ってこれは昔からか」
「ちょっ…総悟!」
な、何言ってんのこの子は!気恥ずかしさで赤くなる頬をそのままに総悟の名前を呼べば更に言葉を繋げる。
「…朱鶴姉の気持ちも」
「なな…!」
「まあ、俺はあのヤローより旦那を選んで正解だと思いやすぜ」
それだけ言うと、総悟は背を向けて歩いていった。私はあまりにも衝撃的な総悟の言葉に未だに固まったまま。
気づかれていたんだ。あのころは小さな子供だから大丈夫だと思ってたのに。私の初恋の感情を。
「何か、恥ずかしい」
「なーにーが恥ずかしいって?」
独り言で呟いたのに返事が返ってきて吃驚した。跳ねた体をぐるりと反転させれば見慣れた銀髪が目にはいる。さらに言えば青筋が立っている銀時さんがそこにいる。
「おっかしいなー。俺お留守番しててって言わなかった?」
「ななな、何のことやら〜」
冷や汗が全身の毛穴から流れ出る感覚を覚えた。過去の経験上、こうなった銀時はめんどくさい。ねちねちねちねちと説教されるパターンだ。そんなのごめんだと思った私は反撃。
「妻を置いてパチンコいってた夫には、罪は無いわけ?」
「うぐっ」
「妻を家に監禁して自分は遊び呆けるなんて可笑しな話じゃない?」
「……」
「そう言う夫に妻は呆れて家を飛び出すケース、最近多いみたいね」
「ごめんなさいィィィ!!」
変わらないものこそ大切
――――
亭主関白なんて、一生なれない坂田家でした