「邪魔すんじゃねえよ!!」







一人、銀時に向かって殴り掛かっていった。
銀時は目にも止まらぬ速さで腰に指していた木刀を握り、その男を数m吹き飛ばした。






「お前ェらを相手してる暇はねえんだよ。
ささっと掛かって来いクソガキ共」





睨みを利かせながら低い声でそう言った銀時にヒィ!と情けない悲鳴を上げて塵散りに逃げていった。
その場には、私と、銀時だけ。

ゆっくりと木刀を腰紐に収めた銀時は、凄く真剣な眼差しで私を見つめる。





「朱鶴」







銀時が一歩ずつ近づいてくる。
私は何故か怖くて顔を下に向け、拳を強く握った。

何を、言われるんだろう。
また、突き放されたら、私…もう耐えられない。






「……何から話していいかわかんねえけど、取り敢えずさっきの誤解を解いてくれ。
俺とあの猿は付き合ってるわけじゃねえ。アイツは俺をストーキングするただのM女だ」






その言葉に俯いていた顔を上げた。
あの女の人と付き合ってない……?
驚く私の心は勝手に嬉しさで跳ね上がる。






「それと、俺はずっと謝りてえと思ってた」






前髪をくしゃりと握り、辛そうに眉を寄せた。
その表情に私の胸が締め付けられる。
どうして、そんな苦しそうな顔をするの?






「お前に黙って家を出て悪かった。だけどこれだけは解ってくれ……俺ァただ、お前を守りたかった」






銀時はそっと私の頬に触れた。
割れ物を扱うように、優しく、優しく。
その手つきから、愛が伝わってくるようで。
…また、勘違いしちゃう。







「例えお前ェを泣かせることになっても、傷つけたくなかった」
「だけどそんなの言い訳にしかならねえ」
「ただ俺は目の前で朱鶴が傷つくのが怖かっただけだ。俺のせいで朱鶴が危険な目に遭うのが嫌なだけだ」
「俺は結局、自分のことしか考えてねえ」







もう一度私に謝る銀時。

ああ、銀時。
あなたは私の知らない所でとても苦しんでたんだね。

私は頬に触れているその弱弱しい手に、そっと自分のそれを重ねた。








「銀時は自分のことしか考えないわけじゃない。ちゃんと私のことを考えて出ていった。解ってたよ、私は」
「銀時はいつも私を一番に考えてくれてた」







銀時は何かに堪えるように顔を歪めた。
そして、両腕で私を強く抱きしめた。







「あれから俺は強くなったか、分からねえ。だからお前を迎えに行くことが出来なかった。 勝手に出ていった俺を拒絶するんじゃねえかって思うと足が動いてくれなかった」






銀時も私と同じことを恐れていたんだ。
私達が一番に恐れたのは愛する人からの“拒絶”だった。








「私も怖かったよ。銀時に拒絶されること。でも小太郎が背中を押してくれたから覚悟して江戸まで来たの」










「ずっと…ずっと会いたかったよ……銀時…っ」








涙でもう、何も見えなくなった。
感じたのは、私を抱きしめる銀時の腕が強くなったことだけ。







「俺もだ……朱鶴。もうお前をこのまま離したくねえ…!」







私だってもう銀時と離れたくなんかない。
もうあんな辛い思いをするのは嫌。
貴方のいない、生きているかも分からないくらい、モノクロな世界。







「……勝手だと思うかもしんねえけど、聞いてくれ」

「うん、うん。聞くよ」










「こっちで俺と一緒に暮らしてくれないか?」






銀時のそんな問いに私は目を見開いた。

私、銀時のそばにいていいの?
まだ…奥さんでいていいの?

…そんなこと言われて断れるわけない。
私は銀時の背中に手を回し、答えを返した。







「喜んで…っ」








銀時はゆっくりと身体を離して私の瞳を覗いてきた。
その眼には、何の迷いもなかった。






「俺はもうお前を一生離さねえ。全力でお前を守ってやる」

「期待してるからね、旦那様」







そう、冗談っぽく言えばやっと銀時は笑ってくれた。
この笑顔が、ずっと見たかった。






「ああ、約束だ。俺の大事な奥様」







三年前に婚姻届けを出したって言うのにやっと実感が湧いて何だか少しむず痒い。
銀時は体制を少し低くして唇を私のそれに軽く押し当てた。
突然のことにビックリしたけど私も笑ってお返しにと踵を上げて唇を重ねた。







っと繋がる赤い糸






「今度こそ、幸せになれよ」





建物の屋根から私達を見守っている小太郎が居たことを、後に本人から聞かされた。

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