もしもこの世に運命というものがあるとすれば、私は今日を指すのだろうと後に思うのだった。




雨にして





見上げれば見ただけで気分が落ちる程の鉛の空。そこからは飽きること無く雨が降り続いていた。そんな中、先程買ってきたスーパーのレジ袋を右手に帰宅路についていた。

下ろし立てである紅色の傘を左手に持って街離れの少しボロい自宅へ向かっている。靴は大量の水分を吸い込んでいて、中では歩く度に不快な音を立てていた。曇天よ、泣きたいのはこっちの方なんですけど。深いため息を吐いた後、荷物を抱え直し歩みを進めた。

数分歩き続ければようやく見慣れた我が家が前方に見えてきた。「やっと着いた………」と今までの苦労の溜め息を吐く暇もなく私は玄関前で唖然と立ち尽くすことになる。そこに銀髪の男性が倒れていたからだ。


「……、……っ」


銀髪の男性は門に背中を預け、顔面蒼白で浅い呼吸を繰り返していた。
(え……ここわたしの家だよね)

見慣れない風景に一度きょろきょろと左右を確認した。勿論近くには古びた私の家しか無かった。


「えっと……おにいさーん生きてますかー?」
「……、た」
「は、はい?」
「腹……減った……コノヤロー」


死にそうな声のわりにそんな気の抜けた理由ですか。思わずガクリと行きそうになったがなんとか足に力を入れて踏ん張った。良く見れば彼には所々に切傷みたいな怪我が沢山ある。着ている物も至るところが解れてボロボロ。焦げ茶色やら赤黒い汚れで元が何色かも判断できない位だった。珍しい赤色の目も虚ろで瀕死状態さながらだ。そんな人を雨の中家の前で放置できるほど、冷酷な人間ではない。


「と、取り敢えず家に入って下さい。風邪引いちゃいますし」


そう言って畳んだ傘と買い物袋を玄関に放り投げた。ごめんね下ろし立ての傘さん。そしてどうか無事でいて卵ちゃん。心の中で呟いた後男性の横にしゃがみこみ、肩に手を回させた。お、重いんですけど!一応女の私はやっぱり男性を持ち上げるのは至難の技だ。

(お兄さん、ちょっと根性出してください!)

ヨロヨロと覚束ない足取りで玄関に向かい、塞がっている手の変わりに足を器用に使い横に扉をスライドさせた。

- 雨が導く最たる愛




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