本日の江戸はお祭りムードで賑わっていた。江戸の一大イベントというだけあって、その規模は相当なものだ。
私はお祭りというものが好きだった。あの独特の雰囲気、響く太鼓、人々の笑顔。すべてが私の気持ちを高揚させ、年甲斐もなくはしゃぎたくなってしまう。
私たち万事屋と、今日のお祭りでロボットを披露するという平賀さんと一緒に色々な屋台を回っていたのですけど…。
「あれ?」
途端に自分一人になってしまった。違います。断じて違います。迷子とか絶対違うからね。みんなが迷子になってしまっただけだからね。うん。あ、林檎飴食べたいなーと思って一瞬足を食べたのがいけなかった。
理由が理由だけに、私は一体いくつだ…と落ち込む。さっきまで神楽ちゃんに「迷子になっちゃダメよ」とかいったばかりだったのに。もう私神楽ちゃんに何も言えない。
周りを見渡すも人が多すぎて探すことは難しそう。迷子の時は下手に動くより同じ場所にとどまったほうがいいといいますし…。
「あ、お兄さん、林檎飴1つお願いします」
「お兄さんなんて嬉しいこと言ってくれるねェ!おまけに苺飴も付けちゃうよ!ベッピンさん!」
「あらどーも」
大人しく林檎飴を食べて待つことにしました。思いがけなく苺飴も手に入れることができて迷子になった恥ずかしさなんてどーでも良くなった。人並みを少し外れた木の下で甘いものを堪能。銀時ほどとは言わないけど、私も甘いものが好きなのです。
口の中に広がる甘味に思わずニヤける。あまーい。うまーい。
今頃銀時が慌てているだろうな、なんて頭の片隅で思いながらも、まあいいや位に思って林檎飴を食べ続ける。こんな私はひどい妻でしょうか。
ドン……パーン!
空に大輪の花。あ、花火始まっちゃった。
その時、お祭りに行く前のやり取りが頭をかすめる。
「マミーお祭り行こうヨ!」
「花火もやるんですって!」
「一緒に見ようや」
あら、ちょっとセンチメンタルになってきた。3人と約束したのに、やぶっちゃったや。
途端に皆の顔が見たくなって、背中を預けていた木から離れて、人ごみの中に紛れる。
うん、探しに行こう。3人も寂しがってるだろうし。特に銀時。
ドォン!!
花火とは違う、何かが爆発したような音。その音がなんなのか理解する前に、人並みの流れが変わり、急に中心から人々が走ってくる。
な、なに?何が起こってるの?
人々は「攘夷派のテロだ!」と言って祭りの中心部から遠ざかっていくように走る。私は突然のことに対応できなくて、前から迫り来る人たちに押されてその場に倒れてしまった。足元なんて見てない人たちは私の存在に気づくことはなく、何度か手を踏まれ、足が体にぶつかる。
勢いが強すぎて立ち上がることもできない。
…まずい…このままじゃ…!
「おい」
騒ぎの中から聞こえた声。
突然力強く腕を引っ張られ、人の波から外れる。
やっと、まともに息ができた。そんな気持ちだった。
「あ、ありがとうございま…す」
ゆっくりと顔をあげるとそこには、眼帯で片目を隠した男の人。来ている着物は女物の派手なやつで、とても特徴的な人だ。
「お前…銀時の、」
「銀時のお友達ですか?主人がお世話になってます」
「くくっ…ただの昔の知り合いさ」
何が面白いのか、喉を鳴らして笑い出す彼。ん?どこかで見たような顔なんだけど…どこだっけ?
「本当に助かりました。なんとお礼を言っていいのやら…」
「俺ァ踏まれて蹴られて喜んでいる酔狂なやつに興味がわいただけだ」
「あの、とっても誤解されてますよね。私それじゃただのドMですね」
私の切り返しにまたクツクツと笑う男性にムッとする。命の恩人だけど…失礼な人だ。
「流石銀時の嫁というか…お前さん俺が怖くないのか」
「だって、あなたは助けてくれたいい人じゃないですか?」
「くくっ…"いい人"ねェ」
男の人は手に持っていた笠をかぶると、背中を向けて歩いて行ってしまった。
そんな彼に私は慌てて呼び止める。
「あ、あの、名前…」
「…そりゃ、いずれわかるだろうよ」
そう言うと、ニヤリと怪しく笑い、姿を消した。
いずれ?…一体どういうことだろう。
気づけば人混みもなくなり、轟音も静まっていた。