朝から銀時は家に居なかった。その理由が珍しく大工さんから屋根修理の依頼があったため、仕事に行っているからだ。
そんなに人数は要らないからと言って今回新八くんと神楽ちゃんはお留守番だ。
「銀さん、真面目にやってますかね……」
「うーん。仕事だから真面目にやってるんじゃないかな」
「でもマミー、銀ちゃんの事だから仕事ほっぽりだしてパチンコ言ってるかもしれないヨ」
「「……」」
神楽ちゃんの言葉に何も返せなかった。銀時の私生活を見ていればそんなことを容易に想像できるもの。……段々心配になってきた。今回は依頼料貰わないとそろそろ食費が底をつく上、大家さんであるお登勢さんに家賃も払わなきゃいけない。
「……そう言えば銀時にお弁当持たせ忘れたわ。届けに行ってくるね」
「一人で大丈夫アルか?」
「僕ついていきましょうか?」
「大丈夫。大体は地形に慣れてきたから」
二人の申し出をやんわりと断り「お留守番よろしくね」と言えば「はーい」と元気な返事が帰ってきた。それが微笑ましくてフフッと笑った後、お弁当片手に万事屋を出た。
***
家が並ぶ住宅街の中をキョロキョロしながら歩いていた。確かここら辺で仕事してるって言ってたんだけど……。やだ、私迷ってないよね?ヤだよいい歳こいて迷子なんてヤだからね!?
そう心の中で喚いていれば建設中の看板と屋根に繋がる梯子が掛かった家があった。
……よかった、道合ってたみたい。
安心した私は取り敢えず下から銀時を呼んでみることにした。
「ぎ、」
「お、この前振りだな」
銀時、と叫ぼうとしたら前から歩いてきた人に声をかけられた。
不思議に思ってそちらを見れば先日再会したばかりの勲くんがいた。
その隣には茶髪の男の子も一緒だった。
「この前はごめんね」
「いやいいさ。本気でやったって負けてたかもしんねえからな」
「近藤さん、この方は誰ですかィ」
そんな茶髪の子の言葉に勲くんは目を見開いた。
「お前気づかないのか?ダーハッハッハ!そうだよな、俺だって気づかなかったからな」
「コイツは」と勲くんが言い掛けたとき、梯子を伝って黒髪の男性が降りてきた。
「近藤さんなにやってんだ……ってその女……」
「お前も気づかんか〜トシ。朱鶴だよ、朱鶴!一緒に武州で剣道やったじゃないか、なあ総悟」
トシ……?
総悟……?
「朱鶴、姉……?」
「朱鶴……」
「うそ……十四郎に総悟……?」
全くわからなかった。
十四郎は昔長かった黒髪をバッサリ切ってるし、総悟はあんなに小さかったのに私を優に越えるほどだ。
余りにも変わりすぎていて全く気づかなかった。
でも言われてみれば雰囲気は昔と変わっていなかった。
「朱鶴姉!!」
「うわっ総悟!?」
総悟がいきなりガバリと抱き着いてきた。
昔はよくやったもんだが今は訳が違う。
驚きながらも総悟の様子を伺った。
「何であの時俺達に何も言わず行っちまったんでさァ!」
「いや、いろいろあって……」
「いろいろじゃ納得出来ねえよ。ちゃんと俺達が納得出来るように説明しろ」
彼らが怒っているのは私が何も言わず武州を離れ、あの小さな村に引っ越したからだ。
理由云々は沢山あるけど、皆に言えることは一つだった。
「余計な気、使わせたくなかったから」
「……馬鹿野郎」
小さく呟いた十四郎は私の頭を撫でた。
昔はよくやってくれたっけ。
私は目を細めてそれを受け入れた。