だんご屋についた私たちは、長椅子に座って各々好きなだんごを頼んだ。
だんごを食べながら、神楽ちゃんは先ほどまで遊んでいた内容を楽しそうに語ってくれた。(ちょっといただけない部分もあったけど)
若いうちにたくさんのことを経験しといたほうがいい…のよね?うん。
「そっか…楽しかったんだね」
「うん!ね、そよちゃん!」
「はい……女王さんが羨ましくなりました、自由で……」
そよちゃんが表情を曇らせ、視線を落とす。とても悲しそうなその瞳に私までそんな気持ちにさせられた。
そよちゃんはさらに言葉を繋げる。
「私、ほとんど城から出たことないから友達もいないし、外のことも何もわからない。私にできることは遠くの街を眺めて思いを馳せることだけ…。あの町娘のように自由に飛び跳ねたい、自由に遊びたい、自由に生きたい……そんなことを思っていたらいつの間にか城を抜け出していました」
「そよちゃん……」
気品溢れる容姿にどこかのお嬢様だということは感ずいてはいたが、あの将軍家の城に住んでいるお姫様だなんて、想像もできなかった。最初はただただ驚いていたけど、そよちゃんの切なる願いに胸を締め付けられる思いだ。
ずっとあの城から街を眺め、自由になりたいと懇願し続けていたんだね。
一般人の私には想像も出来ない屋敷での暮らしは、そよちゃんにとってとても窮屈で、苦しいものだった。
自由にさせてあげたい。
そう思う。だけど、このままじゃいけないということは、そよちゃんもわかっているはず。
「そよちゃん……今頃たくさんの方が心配してるよ」
「はい、わかってるんです…最初から1日だけって決めていたんです。私がいなくなったら色んな人に迷惑がかかるもの…」
「その通りですよ」
上から振ってきた低い声に顔を上げると、そこには真夏なのにも関わらず真選組の隊服をしっかり着込んだ十四郎の姿があった。
そよちゃんは浮かない顔をしながらも、あきらめたような目をして、立ち上がった。
そよちゃんにはもっと自由にならせてあげたい。だけど、お城にいる方たちが心配している。
私にはどうすればいいかわからない…。
そんなことを考える私の横に座っていた神楽ちゃんが十四郎のもとへ歩いて行こうとするそよちゃんの腕をつかんだ。その行動におどろいた私と十四郎、そしてそよちゃん。
「か、神楽ちゃん…」
「何してんだテメー」
神楽ちゃんは挑発的に笑みを浮かべると咥えていた竹串を吹き、十四郎に攻撃を仕掛けた。十四郎は瞬時に腕を振るって竹串を叩き落とした。
その隙を狙って、神楽ちゃんはそよちゃんの腕をつかんだまま走り出した。
「オイ、待てっ!!」
「神楽ちゃん!!」
しかし、二人の走っていく方向には他の真選組の人がずらりと並んでいた。
だけどそんな障害はなんのその。その壁を飛び越え、そよちゃんを抱えて屋根の上に飛び上がった。
十四郎をはじめ、その場にいた全員が神楽ちゃんの行動に目を開く。
「おい朱鶴。オメーんとこのじゃじゃ馬はどうなってんだよ」
「はは、何分元気盛りな子で……」
「元気盛りってなぁ……」
「朱鶴姉じゃねーですかィ!」
真選組の群れの中にいた総悟が、走り寄ってくる。
そのあとに続いて勲くんもこちらに歩いてきた。
「朱鶴!やっぱりあの娘はお前のとこの……」
「……うん」
「何でアイツが姫と」
「さァ」
総悟はそう軽く勲くんの問いに答えるとガチャリ、とバズーカを構えだした。
「ええええええ!?」
「ちょっと総悟君!何やってんの物騒なものを出して!」
「あの娘には花見の時の借りがあるもんで」
「姫に当たったらどーするつもりだァ!!」
本気でバズーカをうとうとしている総悟を必死に止める勲くん。私も一緒になって止めに入れば総悟はすぐにバズーカを降ろしてくれた。
ホッとしたのもつかの間、十四郎がこのままだと強行突破することを隊士に伝える。
「ちょ、ちょっと待って」
「…んだよ。こんなに大事にしたのはあのチャイナ娘だ。止める気はねェ」
「それでも、待って。あの子たち、子供だけど、ちゃんとわかってるの。だから、待って」
「何をだよ」
そよちゃんは分かっていた。このままではいけないと。城に帰らなければいけないと。神楽ちゃんは純粋にそよちゃんを自由にさせてあげたいと思っている。だけど、そよちゃんがきっと神楽ちゃんを説得してくれる。
私は二人がいるであろう屋根の上を見上げた。