貴女に伝える言葉




5月5日。世間はこどもの日だから鯉のぼりやら兜を家に飾って盛り上がっちゃいるが私にとって今日この日はこどもの日よりももっと大切な行事がある。そう、今日は我が真選組副長、土方十四郎の生誕記念日である。私は女中という立場であるにも関わらず、土方さんは何の隔たりもなく話しかけてくれる。この間なんか重い荷物を持っていたところを助けてくれた。そんな優しい土方さんだから私は好きになったのだ。もう本当に。そんくらい大好きな人の誕生日を祝いたいと思うのは当然の摂理だと私は思う。だから今日この日のために私は頑張った。まず近藤さんに相談して誕生日を祝した宴会を開いて欲しいと頼み(笑いながら二つ返事をくれた)、昨夜から料理の仕込みとケーキ作り(マヨネーズ入りの)に追われ、結構前から買っていた贈り物(携帯灰皿)も袖の中。自分で言うのもなんだけど準備は完璧。だけどその準備に追われ過ぎて朝から土方さんに会っていない。朝一でおめでとうございますって言いたかったけど、なんせ今日は殆どの女中が長期休暇でいないのだ、宴会設営のみならず普段の掃除洗濯もしなければなかったのだ。我ながらお疲れさまである。そんな疲れた身体を引き摺りながらも夜を迎え、料理を運び終えた後は酒を持って広間に入った。そこはもうどんちゃん騒ぎで既に酔いが回った隊士や近藤さんが土方さんを囲んでいた。その輪の中にいる土方さんは呆れた顔をしながらも何だか嬉しそうだった。私もそんな土方さんの姿を見て頬が緩んだ。土方さんの誕生日、土方さんにとって幸せなものになったのかな。
私なんかがいたら無礼講に騒げないかなと思い、お酒を近くにいた山崎さんに渡した。



「ここにお酒置いときますね」
「ありがとう、ハナちゃん!」



「いいえ」と言って微笑み、退室しようと襖を閉めようとした。そんな時、隙間から土方さんと目があった、ような気がした。一応頭を下げてぱたりと遮断した。あー心臓がウルサイ。一々反応しすぎだっつーの。私はその場で大きく深呼吸したあと、厨房に戻ろうとした。まだおつまみがあった筈だから。一歩前にだしたとき、後ろで襖が開く音が聞こえた。何か必要なものがあるのかと後ろを振り替えればそこには、土方さんがいた。



「ひ、土方さん。どうなされたんですか?何か足りないものでも…」

「いや、ちょっとな。…今いいか?」



そう言って土方さんは縁側に腰掛けた。私は戸惑いながらも「は、はい」と返事して土方さんの横に程よい距離を置いて座った。



「近藤さんから聞いた。今日の俺の誕生日を祝う会を計画したのも、用意したのも全部お前がやったってな」

「はい…」



余計な、事だったかな。普段土方さんは日々激務に追われている。なのに私が宴会なんて計画したから、怒ったかな。私は握り拳を作り、謝ろうと決意した。



「あの…す」

「嬉しかった」

「………へ?」

「この歳になってこんなに祝われることなんかねえからな。…ありがとよ」




そう言って、土方さんは私の頭を不器用に撫でた。その大きくて暖かい手に涙が誘われた。はらりと一粒涙を溢すとギョッとしたように私をみた。



「な、何で泣いてんだよ!」

「だって…嬉しくて…土方さん喜んでくれたから…う、うわーん!」

「……ったく。餓鬼じゃねーんだからよ」



ワイシャツの裾で乱暴に涙を拭かれ、驚きで涙が引っ込んでしまった。目を見開いて土方さんを見上げればそこには優しい表情があった。私はこの表情が好きだった。呆れたように笑うこの表情が。



「土方さん…誕生日、おめでとうございます」

「ああ。ありがとな、ハナ」



ごめんなさい。プレゼント、今は渡せそうにありません。涙でぐしゃぐしゃな顔であげるなんて格好つきませんから。だから、泣き止むまで、側にいてくれませんか?そしてその時に私の気持ちも伝えますから。









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