熱に愛を乗せて
大きなダブルベッドに並んで寝転ぶ零の顔を徐ろに見つめる。そこには相も変わらず整った部位が取り付けられていて悔しくなる。それは間違いなく、小さな嫉妬心だ。恋人に対して抱く感情ではないなと胸中で自嘲する。
ささやかな八つ当たりとして羨ましいくらいにきめ細やかな頬に触れ、ふにっと横へ伸ばした。
「痛い」
うとうとしていた零がそう訴える。不快そうに歪められたその表情に、私は満足げに笑った。
それが気に入らなかったのか、仕返しとばかりに鼻をつままれる。
「痛いよ」
くぐもった声で非難の声をあげれば、してやったり顔で意地の悪い笑みを浮かべた。この負けず嫌いめ。
「寝ないのか」
「うん、寝ない」
はっきりとそう言い張る私に、今度は可笑しそうに笑いながらも「なんで?」と問いかけてきた。素直な気持ちを伝えれば、呆れられてしまうかもしれない。だけど、全てを受け入れてくれそうな優しげな瞳で私を見つめる零に、そっと思いを溢す。
「朝が来たら、隣に零はいないでしょ?」
私の台詞に、意外そうに目を見張った。零の職業は極めて特殊だ。秘匿性の高いことも、命を脅かすほど危険な仕事だということも知っている。長年傍にいる私は、ちゃんと理解している……つもり。だけど、それでも。心はいつも置いてけぼり。寂しくて、辛くて、心配で。握り潰されてしまうほど心が締め付けられるのだ。
「明日なんて、来なければいいのに」
言い終わってから、なんて子供じみた言葉を吐いてしまったのだろうと自責の念に駆られる。
だけど零は呆れるわけでも笑い飛ばすわけでもなく、至極真剣な表情で私を見つめていた。
「ごめんな、ハナ」
私の頬を撫で、切ない声色で謝罪を受ける。
違う、そうじゃない。謝って欲しいわけじゃない。首を横に振って否定の気持ちを表現し、頬に触れる彼の手に自身のそれを重ねた。
「心配はするけれど、会えない日が続いてもいい。こまめに連絡とれなくてもいい。その代わり……いつまでも待ってるから、絶対に私の所に帰ってきてね」
絶対なんて言葉、この世に存在しない。なのに、敢えてその単語を使う私は矛盾している。
分かっていても、それだけ零の傍にいたい気持ちが全ての感情を凌駕するのだ。
「ああ、必ず。約束するよ」
それだけ言うと、私たちの間にあった僅かな距離を埋めるように零の顔がゆっくり近づいてくる。これから与えられるであろう熱を受け入れるようにそっと瞳を閉じた瞬間、唇が重なる。
熱くて、理性が飛ぶような激情的な口付け。溺れてしまうような感覚に陥りながらも、その行為を受け入れた。
「ん……れ、い……好き、大好き」
「…………可愛すぎだ」
更に激しくなる口付けに、呼吸の仕方も忘れるほど脳が麻痺していく。その甘い痺れに酔いしれながら、これからもこの熱を失うことのないよう、神なんていう不確かな存在に祈りを捧げた。
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