innocent




「お前らって付き合ってんの?」

そう聞かれれば私は迷わず首を縦に振ることができなかった。
確かに私には3か月前、一世一代の告白をした。1年前からずっと好きだった…黒子君に。返事を待つ数十秒は本当に心臓が爆発しそうで、苦しかった。でも黒子君は「よろしくお願いします」と、あの落ち着いた声で返してくれた。

それからは所謂彼氏彼女の関係になったのだけど…それらしいことは一切していない。その、キス、とか。手だって繋いだことはない。辛うじて毎日一緒に帰ったりとかしているけど…そんなの友達だってすることだ。付き合う前に黒子君とさつきちゃんが一緒に帰るところ見たことあるし。

それを友達に言うと「あり得ない」と言われた。中学3年生はまだまだ子供だけど、三か月も付き合っていて手も繋がないのは異常らしい。そういわれると心に生れるのは焦燥。本当は黒子君…私のことなんて好きじゃないのかな…なんて考えるようにもなった。だって、黒子君から一度も「好き」と言われたことがない。

-----そんなモヤモヤを抱えたまま幾日が過ぎ…テスト前ということで黒子君のお家で勉強会を二人ですることになった。私としては密室に二人でいるこの状況にドキドキしてばかり。そりゃ…期待だってする。目が合うだけで心臓が飛び出てしまうかと思った。


「ハナさん」
「あ、な、なに?」
「ここ、教えてもらってもいいですか」
「あ、う、うん」


そう言って黒子君は少し開いていた距離を詰めて教科書と体を私のほうに寄せる。一気に近づく。またドキリと心臓がなった。顔を上げると予想よりも黒子君との距離が近くて、驚きで動けなくなる。


「あ…すいません、近い、ですよね」


目線を先に逸らしたのは、黒子君だった。距離がまた遠くなって、ツキンと胸が締め付けられた。


「……黒子君、私のこと…好きじゃない、の?」
「え…ハナ、さん?」



気づけば私の双眸からは涙があふれていた。目の前であからさまに避けられて、辛くないわけがなかった。まるでなんとも思っていない事をまざまざと思い知らされたようだ。



「好きじゃないならお付き合いません。どうしたんですか?…僕が、傷つけてしまったんですか?」
「だって…黒子君…手も繋いでくれないし…私、のこと、好きじゃないのかなって…」
「そんなことあるわけないです」



瞬時に否定が返ってきて、思わず彼の顔を凝視してしまった。その表情は…とても真剣だった。



「……あまり見せたくはなかったんですけど…」




そういって黒子君は徐に立ち上がり机の引き出しを開けた。そこから一冊のアルバムを出し、私に手渡す。
見ても、いいのかな…。窺う視線を向けると彼は微笑んでうなずいてくれた。遠慮がちに表紙をめくると、そこには私の写真があった。これ…中学1年生の時のだ。



「僕は…入学した時から、あなたのことが好きでした。一目ぼれというやつです」
「え…、うそ、」
「嘘じゃありません。花のように綺麗に笑うあなたに惹かれて、気付けば後戻りが出来ないほどにあなたを想っていました。それから部活も一緒で、より近い存在になって、嬉しくて。でもどうすることも出来なくて…ハナさんに告白された時は、本当は泣きたいほど嬉しかった」



私の隣に腰を落とした黒子君はそっと手を取って優しく握ってくれた。暖かい…けどやっぱりその手は少しごつごつとしていて、男の子なんだな…なんて思った。




「こんなに大好きなあなたとお付き合いすることができて、僕も戸惑っていたんです。それ以上にあなたに拒絶されることが…怖かった」
「こわ、い?」
「僕だってハナさんに触れたかったです…でももし拒絶されたら…そう思うだけで手が震えて。あなたの嫌がることは絶対にしたくない、…絶対、嫌われたく、ない」
「黒子、くん」



あんなに不安だった心は、今は愛で満たされていく。黒子君はこんなにも、私を想っていてくれたんだ。
気が付けば、彼の背中に手を回し、強く抱きしめていた、



「ハナ、さん…?」
「好き、大好き」
「っ……僕も…大好きです」




恐る恐る背中に回った腕が、とても愛しくて、彼の胸の中で小さく笑った。



「ずっと一緒にいようね…テツヤ君」



見上げた彼の顔はリンゴのように真っ赤だった。







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