なんかドキドキするから病院行ってきます
がやがや賑わう街の一角にある建物。その店の暖簾を潜り、入口に一番近いテーブルに腰を下ろした。最早ここは俺の定位置となっている。
奥から顔を出したおばちゃんがいらっしゃい、と明るく声を掛けてくれた。それに片手を挙げて答えると、茶をテーブルに叩き付けるように置かれた。
視線を動かしてその人物の顔を見ると、いつも通りのふてぶてしい表情をした女がいた。
「また来たの?余程暇なようですね」
「んだよ、いらっしゃいませの一言も言えねえのか?」
「毎回つけとかいって金を払わない男を歓迎するほど出来た人間じゃないの」
こいつはこの甘味処の看板娘。俺がここに来るたんびに突っ掛かってくる。金を払わない俺を心底嫌っているようだ。まあ営業側としては当たり前の反応か。
「だんご3本な」
「…今日こそ勘定はらってくれるんでしょうね」
「今日は払うっての。何だァ?銀さんがそんなに信用できないのか?」
「当然」
「はやっ!返答はやっ!っとに可愛くねー女」
「可愛くなくて結構!」
ふいっと思いっきり顔を背けると足早に奥へと去っていった。
本当、愛想のねー奴。
そういや、あいつの笑った顔を見たことねえな。いや、正確に言えば俺に笑顔を向けたことがない。
他の客にはしっかりと口角を上げて明るく接待しているのにな。
そう考えると少し胸がむかむかした。何でだかしんねーけど!
不貞腐れたように口を尖らせてから茶を一口飲む。
はあ、と溜め息を付くと団子が乗った皿が目の前に置かれる。
「…何でため息なんか吐いてんの」
「べーつにー。なに、銀さんのことそんなに気になる?」
「死ねば?」
「それ酷すぎね?」
涙目でそう訴えても顔色ひとつ変えずに冷めた目で見下してくる。それにさらに傷つき、何か言ってやろうと口を開けば奥の方にいる客に呼ばれて足早にそっちへ歩いていった。
言葉を発することの出来なかった口を閉じ、拗ねたように舌打ちを一つ。
あの態度はねーよな。 いくら銀さんでもぐさぐさと心を切り刻まれる思いだよバカヤロー!
今度此方来たら文句の一つでもつけてやろうと決意し、だんごに手を伸ばした。
その時、一人の客があいつに絡んでるのが視界に入った。
「姉ちゃんずいぶん別嬪じゃねえか。これから隣町まで遊びにいかねえか?」
「勤務中ですので」
「んなもんほっときゃいいんだよ。な?俺と楽しいことしようぜ」
そういって客があいつの手を握る。それを見た途端体が勝手に動き始めた。
俺は客の前に立つと木刀を力の限り振り、店の外まで吹っ飛ばした。
「…ったく、大人しくだんごも食えねーのかよコノ発情期野郎」
外に出て倒れている客を見下しながらそう言うと、情けない悲鳴を上げて走り去っていった。
…あー、なんだよ俺。何でこんなことしてんの俺。別にあいつがちょっと絡まれてただけだっつーのに。
店の前で悶々と考えていると中からあいつが出てきた。
「あ……あの」
「…んだよ。あいつなら追っ払ってやったぞ」
そう言うとほっと安心したように息を吐いた。と思ったら何故かもじもじと手を動かして此方をちらちら見てくる。
「なんだよ、トイレか?」
「違う!!…あーあの」
「ありがと、う」
顔を真っ赤にしながら少し微笑んだ。
そんな顔を見た途端に俺の心臓は大きくはね上がった。
な、なんだこれ。どうしちゃったんだ俺はァァァ!!!
何かドキドキするから病院行ってきます
楓さん主催
Sweet Sweet!に提出
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