空蝉よ、嘆くことなかれ


透き通るような青い空。緑の隙間から溢れる日差しが、眩しく肌に突き刺さる。



もう、夏はすぐそこに来ていた。夕暮れと明け方には蜩が鳴き、初夏の訪れを祝うようにその声を響かせる。



「あなたと出会い、あなたと恋に落ち、あなたを失って…もうすぐ、1年が経つのですね」



初めて会ったあの日は、終わりの世界からやってきた私にはまぶしすぎる煌びやかな世界。お父様は存命で、若く、危ういところを持ちつつも強く、素晴らしい存在で。その隣にはあなたの姿。



思えば、あの時から私はあなたを好きになっていたのかもしれません。



私が皆さんに正体を明かし、共に行動をするようになってからも、あなたは私に優しく、温かい声をかけて迎え入れてくれましたね。



私は、あなたに刃を向けたのに。


貴方の愛を得られる資格なんてないのに。


それでも、貴方は笑って手を差し伸べてくれた。


私には、それがとても嬉しくて、幸せで、同時に辛かった。



貴方が愛を告げてくれて、身も心も一つに繋げた時、貴方はとても幸せそうに笑っていた。



そんな優しい、素敵な貴方だからこそ。
きっと、この選択をしたのだろうと今なら納得がいく。



この緑豊かな大地も


行き交う人々の笑い声も


幸せそうに笑う家族も


ぜんぶぜんぶ、貴方がいたから作られたもの。




私にも幸せを運んでくれて。


私の仲間にも幸せを運んでくれて。


そんな貴方が、幸せになれないなんて。


そんなのは、あまりにも理不尽すぎる。




だから私は


貴方も幸せになれるように


今日も明日も、5年後も10年後も


何年経っても願います。




そして


願わくば


あなたがいつか


またひょっこりと現れて



「こんなところにいたんだね、ルキナ」



そう笑って…………笑っ…………



「どうしたんだい?そんなに驚いた顔をして」



目の前の彼は、穏やかに笑いながらこちらを向いている。


これは夢なのだろうか。いや、でも、


「夢でもいい、夢でもいいです。
貴方がそばにいて、笑って私を呼んでくれる夢なら、いくらでも………!」


「夢じゃないよ、ルキナ」


そう言って私を抱きしめて、貴方は優しく呟いた。



「ただいま、ルキナ」



その声も


この腕も


この体も


この匂いも


全て、私に語ってくれる。



これは、




夢なんかじゃないと。




溢れ出る涙を抑えることも出来ず、ただ彼の腕に抱かれながら、声をあげて泣いた。



おかえりなさい。


ずっと、貴方を待っていましたと。





空蝉よ、嘆くことなかれ
(喜びはすぐそこにあるのだから)




  
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