6章 未来を知る者






イーリス城 中庭




「………………」



クロムはそこに1人で佇んでいた。





「クロムさん?どうしたんですか?」




ルフレがやって来た。


クロムはルフレの方を向き、静かに口を開いた。



「ギャンレルは、前の戦争でペレジアが多大な被害を受けたと言った……しかし、それはイーリスもなんだ。」

「え……?」


「姉さんが聖王の王位を受け継いだ15年前……イーリスは前聖王の命でペレジアと戦争をしていた。

イーリスの民達はみな徴兵となり、無惨に殺されていったんだ………」


「………!」


「それから前聖王は急逝……姉さんは10にも満たない歳で聖王の王位を受け継いだんだ。

それから、姉さんの苦しい道が始まったんだ……


他国の民の恨み、自国の民の怒りは、全て姉さんに向けられた……


聖王を恨む者から石を投げつけられ顔に酷い傷を負った事もあった……


それでも姉さんは、俺とリズの前でしか涙を見せなかった。


姉さんは兵達を家族の元に帰し、人々の訴えを聞き、少しずつ、少しずつ信頼を取り戻していったんだ……

でも、そんな姉さんの理想もギャンレルには通じ無い。

俺は守りたいんだ、姉さんの理想を。

たとえ、この手を汚そうとも…

イーリスには姉さんが、聖王が必要なんだ……」


「その通りだよ」


「!?」


2人の目の前にマルスが現れた。


「お前、何処から…」


「向こうに壊れた壁があってね。」


「あそこか………!
隠してたつもりが、バレてたんだな」


「僕以外は知らないよ、秘密だからね」



「クロムさん、何の事ですか?」


「いや、練習中に壁を壊して……」


「………………」



マルスは一つ咳払いをして、クロム達の方を向いた。



「今日は君たちに大切な事を伝えに来たんだ。」


「大切な事?」


「ああ、僕は知っている。




聖王エメリナが暗殺される、絶望の未来を……!!」


「!? 暗殺……だと…!?

でも、何故お前がそれを…」


「…僕が未来を知る者、だと言ったら信じてくれるかい?

……そのために、証拠を見せよう。」



そう言ってマルスは自身の剣を抜いた。



そして背後の茂みに向かって



「そこにいるのはわかってる。
出て来い。」


次の瞬間、暗殺者が現れた。


マルスは剣を投げ、空中で一回転すると暗殺者の背後に立ち背中を斬りつけた。


「……これで、信じてもらえただろうか」

「あ、ああ……」


だが次の瞬間


ガサガサッ


もう1人の暗殺者が現れた。


「もう1人いたか……っ!?」


マルスは敵を斬ろうとしたが、先程倒した暗殺者の落とした剣を踏んでしまい、身動きが取れなかった。


すかさず暗殺者がマルスを斬りつける。


間一髪、怪我は逃れたものの、マルスの仮面が取れてしまった。


クロムが暗殺者を斬り伏せた。




そして振り返り、驚きの表情を浮かべた。



その青い髪は長く、胸元まである。


丸く大きな瞳に柔らかい顔立ち。




「女、だったのか………」


「ばれてしまった以上、男性の演技を続けるのも不要ですね」



マルスが微笑んだ直後



ズシン………



「!?城が…エメリナ様!」



3人は城内部へ駆けて行った。











辺りには敵が沢山いる。




「狙うはエメリナの首と炎の台座。

それ以外のものには目をくれるな。」


「はっ。」



マルスの言うとおり、エメリナを暗殺しに来た者達だった。



「くそっ……皆、姉さんを守るんだ!」


「「「了解!!」」」


「皆………」


どうか無事でいて。

エメリナは祈るしかなかった。







一方



「どういう事だ……?
聖王エメリナの、首だと……?」


敵の1人である盗賊の青年はどうやらエメリナの暗殺は聞いていなかったようだ。


「宝物庫にある国宝を盗み出すだけじゃないのか……ちっ。
厄介な仕事を頼まれたもんだ。」


そう言って青年は懐から棒付き飴を取り出し口にくわえた。








「む、何だこの気配は……」


敵将の男がルフレを見つけた。


「ほう。こんなところにいたか。

これは思わぬ土産だな、くくく…」











「……ふぅ。先に忍び込んでおいて正解ね。」


突如背後からうさぎの耳の生えた女性が現れた。


「新手の敵か……?」


「いえ、彼女は味方です。

直接の面識はありませんがベルベットと言う名前とここにくる事は知ってました。」


「そうか、よし分かった。

あいつは味方だ、手を出すな。」


「信じてくれるのですね」

「ああ、信じると決めた。」

「ふふ、ありがとうございます。」


「よし、姉さんを守るぞ。」


クロムは剣の柄を握り直した。









クロムは盗賊の青年と対峙していた。


「悪いが、姉さんに手出しはさせん!」


「………待て。
俺は手を出すつもりはない。」


「!
お前は暗殺者の仲間じゃないのか」


「ああ、金で雇われただけだ。
俺がいれば宝箱の鍵も扉も開けれるからな。

ただ、暗殺の話は聞いてなかった。

この依頼は取り消しだな。」


「そうか……なら、力を貸してくれないか?」


突然の言葉に青年は顔を顰めた。


「は?仲間?」

「ああ。
姉さんを救うには1人でも多くの力がいる。
お前ならある程度強いし知識もある。
力を貸してくれ。」

「依頼って事か。いいぜ。
ただし、報酬はもらうからな。」

「報酬…金か!?
くそっ、確かこの辺に……あ」


お金を探していると、クロムは先日リズに貰った砂糖菓子を落としてしまった。


「……それ、何だ?」

「ああ、これは妹に貰った砂糖菓子だ。」

「砂糖菓子…………」

「ん?どうした?」


青年の顔に笑みが浮かんだ。



「いいぜ。その依頼受けてやる。
さあ、その菓子を寄こせ!」

「え、か、菓子でいいのか?」

「ああ、特別にな。

…別にそれが食べたかった訳じゃないからな。」

「…………」


こうして、盗賊の青年、ガイアが仲間に加わった。


因みに彼はツンデレではない。



「ルフレ、こいつも新しい仲間だ!」

「はい、御二方の会話はバッチリ聞いてましたからわかりますよ」

ルフレは親指をぐっと立てた。
















「貴様ら、何故暗殺計画を知っていたのだ……」


「…教えてもらったのさ、大切な仲間にな。」


「あ、貴方がエメリナ様を暗殺しようとしてる方ですね、ゆ、許しません!」


「エメリナ様は、守ってみせます。」






「ぐう……っ!馬鹿なぁ……っ」





恐らくマルスが居なければエメリナ暗殺には気づかなかっただろう。


クロムはマルスに礼を言おうとしたがマルスはいなかった。



「……………」



マルスは中庭にいた。


「また、黙って居なくなるつもりか」


「!…………私の役目は終わりです。もう、これで未来は変わるはず………」


「俺達はお前に助けてもらってばっかりだ。

何かでき無いのか?」


「ふふ…その気持ちだけで十分です、ありがとうございます。」


「……また、何かあった時は俺を頼れ。

お前の為なら、俺はお前を助けよう。」


「……はい。」











****







「ぐっ……くそっ……」



「ファウダー」



「! 貴様は誰だ」



「お前にはまだ死んでもらっては困る。


お前にはあの【運命の日】まで生きてもらわなければな……


ファウダー、お前に力を授けよう」


「ああ、貴方は……貴方様は…」


「くくっ……我はギムレー。」






邪竜、ギムレーだ。






















  
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