2章 湖への鍵2

その後様々な場所での情報収集の結果、帆が魔物達に盗まれたことは確実らしい。また、船以外で湖を渡る方法はないらしいということも分かった。風が強くなることがあるので、筏のような簡単な作りの乗り物では氷点下の海に落ちる可能性があるからだ。幸い帆さえあれば船は出航できる状態なので、魔物達をなんとかするのなら街の人は湖へ船を出すのには協力してくれるようだ。ルカ達一行はまず盗まれた帆を探すか、帆の代わりになるものを探すことにした。

途中、街を歩きながらミーがふとこうつぶやいた。
「でも不思議ね。高価なものはたくさん街にあったはずなのに、オーブと船の帆だけとられちゃうなんて」
「確かに。オーブは元々あの邪悪な魔物達が欲しいものだと思うけど、どうして船の帆なんだろう…」
ルカが思考を巡らせる。単純に考えられるのは、船を出されると都合が悪いことがあるからだ。ではその都合の悪いこととは、湖の中心の塔へ第三者がたどりつくことだろうか。それとも、他にも理由があるのだろうか。
「船を出して欲しくないだけなら、船ごとこわしちゃえばいいのに。変なの」
船がなくなり寂しくなった波止場を眺めながらミーがなんとなく口にしたその一言が、ルカの頭に妙にひっかかった。しかし、今は細かいことを気にしていられる状況ではない。日が暮れないうちにと、一行は街を回る足を急いだ。

日も暮れそうになったので、その日は情報収集と道具の調達だけで終わってしまったが、これからの行動の目処は立った。情報集めに念を入れるため夕方は酒場に寄ることにした。
ルカちゃんに酒場は早い!とミーが反対したが、情報収集といえば酒場だというルカとりゅうたろうの案で、酒場が開いてすぐに足を運ぶことにした。もちろんある程度の話が聞ければよいので、長居はしないつもりだ。店の大きさの割にこじんまりとした看板のある酒場の入り口で、一度足を止める。マルタ以外の酒場に客として入るとは思わなかったなー、とルカがつぶやいた後、入り口のドアノブに手をかけ、深呼吸をする。
「情報収集が目的だ。長居はしないぞ」
なかなかドアをあけられないルカに対して、りゅうたろうが背中を押す。
「分かってるよ…でも、酒場はモンスターマスターがたくさんいるっていうし、でも僕はマスターじゃないし、戦いを申し込まれるっていうし、他の国の酒場は初めてだし、なんかその、緊張するし…」
めずらしくうつむくマスター一日目の少年に、りゅうたろうが見かねて声をかけた。
「気にすんな、俺たちがついてるんだ。なんならもう一回俺がパーティーの先頭歩くから、ルカは後ろにいるか?」
「いや、大丈夫。僕が行く」
「なら、任せたぞルカ」

「この匂いちょっとくらくらするぞ…オレは気分転換にならないな」
酒場に入ると、独特のアルコールの匂いが鼻につく。あとは干し芋だろうか。おつまみの匂い。
カウンター席の右端からりゅうたろう、ルカ、ミーの順番に座り、体の小さいぷっちょはルカの正面によいしょ、とこしかけた。
こんなに小さいお客さんは初めてですよ、モンスターマスターですか?とカウンターごしの店主に話しかけられ、「まあ、そんなところです」とはにかんで曖昧な回答をするルカ。りゅうたろうとミーがメニューを見ながら適当にドリンクとおつまみを頼んでくれた。

マスターにことの経緯を話していると、1人の客が静かに入ってきて隅のカウンターに座った。マスターとカウンター越しに軽く挨拶をかわすと、「いつものでお願いします」と柔らかい声を発した。珍しい形をした帽子と、装飾の凝った紫のローブが印象的だ。港町に似つかわしくない格好から、町の人間でないことは分かる。背中に背負った四角い木の箱をおろすと、その上に帽子を置いた。帽子の下の銀の長髪にルカが見とれていると、視線に気がついたのかルカに話しかけてきた。
「お客さんにしてはずいぶん若いですね」
「あっえっと、外の世界からきたんですけど、この町のお話をききたくて」
慣れないシチュエーションで緊張しているのか、ルカの目線と声色が泳ぐ。
「僕でよければお相手しますよ」
長髪の似合う整った顔立ちと中性的な声色から一瞬男性か女性か分からなかったが、よくよく観察すると男性のようだ。
じゃあ、とルカが切り出そうとしたところで、ミーが間から入ってきた。
「ホントですかー?こんな綺麗なお兄さんとお話できるなんてー!お兄さんなんでそんなに肌キレイなのー?」
「生まれつきですよ。この世界は日差しが強くないですからね」
「やだあそれにしてもつやつやすぎるー!他に何か秘訣とかないんですー?」
「ったく…ミーはルカの話の邪魔すんなよ」
1人で盛り上がろうとするミーにりゅうたろうがぼそっと悪態をついた。

「あのなにーちゃん、」 
ミーの黄色い声をかき消したのは、カウンターに小さな体を腰掛けているぷっちょだった。
「おれたちは、オーブを奪った悪い魔物達を追いかけてるんだ。何か知らないか?」
カウンターの上に腰掛け、華奢な長髪の男にまっすぐな視線を向ける。ぷっちょにしてはいつになく真剣な目で、彼の言葉でその場の空気はがらりとちがったものになった。さっきあれほどしゃべっていたミーは静かになった。
ぷっちょも意外としっかりしてるなあ、とルカが感心していると、しばらくの沈黙の後、長髪の男は微笑みぷっちょにこう返した。
「単なる魔物退治…ではなさそうですね。僕でよければ知っている限りはお話できます。
その前に…あなたたちのことに興味があります」


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