1章 精霊の願い6

「ケケケ、タシカにオーブはイタダイタぞ!」
「ハナシのトオリオウハカイホウしてヤル」
2匹の魔物はオーブを手に眺めると、満足そうな笑みを浮かべた。約束の通り、王からはすぐに数歩引き、離れた。
その後ケタケタという笑い声と共に森の奥へと走り去っていってしまった。

直後ぷっちょが追いかけようと地面を蹴ろうとしたが、ルカとミーがそれを止めた。
「よせ、ぷっちょ!」
「離せよ!だってあいつら追わないと…!」
「早まるな。…あいつら相当強そうだし仲間がいるかもしれないんだ。無謀な勝負を挑むのは危険だよ」
「そうよ!それに王さまやテトさんに何かあったら大変じゃないの」
「………」
ぷっちょは理解したのか悔しそうな表情で一歩身を引いた。

こうしてフィアーパペット達がいなくなった途端、泉とその周りの森にはに以前にも増して不気味な静けさが戻った。



***



王とテト、そしてルカたちは寒さが激しくなる前に城ノースデンに戻ると、人々の様子がなにやら慌ただしい。明らかに町が荒らされた跡があった。民家の窓は割れ、道具屋は壷をひっくり返され、カウンターの上には売り物が無造作に放られていた。
住民から話を聞くと、魔物が二匹夢見のオーブを探して荒らして行ったらしい。魔物の風貌の情報から、どうも先ほどのフィアーパペットのようであった。
城は無事だったが、動ける衛兵がいなかったために町の侵入者を撃退できなかったようだ。そのことことで病に伏している兵士たちの士気はいっそう落ち込んでいた。ルカたちは、自分たちの置かれている状況がしばらくのみこめず、ただ黙って町の様子をしばらく見ていた。家が半壊したことで寒さをしのげない市民、仕入れた商品が売れなくなった道具屋、家族の身を案じて慌てて駆けつけた炭坑夫など、様々な人が魔物の襲来により困っている様子だった。
しかし、ルカたち一行は王の好意と護衛のお礼ということで、ノースデンの城に一晩泊めてもらうことになった。暗くなると視界も悪く、寒さが増すので雪道を歩くのは難しいと判断したためでもある。不思議と城にはほとんど手はつけられていなかったため、城内の来客用の寝室に一人と三匹はテトに案内された。さほど大きくはないが、大きなベッドが一つ赤いカーテンのかかった窓際にあり、魔物達のために敷き布団がいくつか隣にきちんとたたんで置いてあった。金色の装飾のされた赤い絨毯と小ぶりのシャンデリアは、ルカたちには少し上品すぎたように感じた。

「うわー…こんな豪華な部屋でいいのかな、僕たち」
「いいんですよ。護衛を突然頼んだ上に、なんだか大変な目に遭わせてしまいましたから」
ルカが思わずそう漏らすと、テトは笑顔で答えてくれた。そんな彼も様々な出来事が一度に起こったために、多少は困惑しているようで、時折顔に疲れが浮かぶのが伺えた。
「でも…他に一般市民の人だって使う予定はないのかな?」
「それなら平気です。別に暖炉のある広い部屋がありますので、そちらをつかっていただきます」
その言葉にルカは安心したようだがりゅうたろうが口を挟んだ。
「ならいいんだけどな。しかし護衛もまともにできなかったのに、…少し申し訳ない」
「いやいや、いいんですよ!無理を言った私たちからのほんの御礼ですから」
兜を脱いで現れた茶色い癖毛が、笑顔と合わさってよけいに優しい印象を与えた。ルカとりゅうたろうはその言葉に少しは安心した。
「じゃあテトさん、遠慮なく借りるね!」
「あとルカさん。明日の朝はこちらでお食事を用意しますので、朝はちゃんと起きて下さいね」
「はーい!」
そう言うと部屋の鍵をルカに手渡し、おやすみなさい、と軽くお辞儀をしてテトは去って行った。その様子を、「礼儀正しい人ね」とミーが感心していた。

「じゃあ寝る前に…作戦会議しようか」
テトが去ってから少しの間続いた沈黙をルカが破る。
「さくせんかいぎ!?おおっわくわくするな!」
「そんな楽しいもんじゃねえぞ、ぷっちょ。…これからのことか?」
楽しそうな言葉に反応したぷっちょを、りゅうたろうがなだめる。
「うん。探しにきたオーブは簡単に手に入らないみたいだし、ここはよくわからないけど大変なことになっちゃったし、僕もその…マスター見習いみたいなものだしみんなの意見を聞きたくて」
少し不安げに目を伏せたルカの様子を汲み取ったのか、ミーが即座にこう反応した。
「おっけ!じゃあ、寝る支度が整ったら始めましょ」


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