1章 精霊の願い5

「ケケケ…イイトコロニキテクレタナ。ミズカラヤッテクルとはツゴウがヨイ!」
「な…っ何じゃ貴様ら!」

王はとっさに後ずさる。緑色の陰が2つ突然降ってきたかと思うと、カクカクとした動きで王へじりじりと迫っていった。現れたのは2体のフィアーパペットだ。一瞥しただけでは野生の魔物とは判断しがたいが、この辺りの魔物とは違う邪悪さが表情から感じられた。

「マスター…じゃないルカ!」
「ウゴクナ!キサマらがウゴクトこのオウがドウナルかワカッテイルんだロウナ?」

りゅうたろうがルカの方を向き指示を仰ごうとすると、うちの1体がこちらを睨みつけた。ルカは冷静にりゅうたろうを制し、りゅうたろうも険しい顔に冷や汗を浮かべつつも一歩身を引いた。
後方のミィはその場から動かず、冷静に状況を分析する。

「ルカちゃん気をつけて!あいつらここらへんの野生の魔物より各段に強いよ」



「サテ、オウにはオトナシくそのオーブをワタシテモラオウカ」
「ソレさえワタシテモラエレバよいノダ。サモナケレばキサマのイノチモロトモウバウノミ!」

2体はそう言いながら王へ迫っていく。王はオーブを両手でしっかりと抱いたまま彼らをじっと見、その場に佇んでいた。あたり一面の雪のせいもあるが、それ以上に張りつめた何かが辺り一体の空気に流れている、そんな気がした。
ルカの隣のテトが小声で話しかける。
「ルカさん、…その、こういう場合は一体どうすればよいのですか?」
「うん…」
「はっ、早くしないと王の命がっ!」

頼もしそうな見た目の割には弱気な台詞を吐く彼を尻目に、ルカは暫く冷静に思考を巡らせた。テトの表情からは焦りが前面にでているのがうかがえる。
深呼吸して目をつぶった。自分たちが動いたら王様は確実に襲われる。かといって僕たちが黙っていても王様の安全が保障できない。オーブもなんとか無事に取り返したい。
イルならどうする?マスターをやったことがない僕はこの状況をどう乗り切ればいい?
そしてしばらく黙っていたルカが口を開いた。

「分かった、王様!オーブを渡して!」

ルカが声を張り上げる。その場にいる者全員の視線がルカに向かう。その中でもルカはさらに声を張り上げ、続けた。
「お前たちはオーブが必要なんだろ?オーブは大人しく渡す。ただしその代わりにオーブを受け取ったら王様からすぐに離れるんだ、いいかな?」

ルカの声が崖に反響し、辺りに響く。しばらく谷に静寂が流れた後、フィアーパペットたちはしばらく顔を見合わせた。王とテトも無言で視線を合わせると、しばらくした後王は彼らの方へ一歩進んで手に持つ箱ごとオーブを地面の雪の上にそっと置いた。
テトはしばらくその場で固まったままだったが、王様の無事が最優先ですよね、とルカが付け加えると頷くしかなかった。
そしてうちの1体が王様に近づいていく様子を、ミーたち3体も黙って見つめていた。


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