1章 精霊の願い4


それはだんだん人の形になっていき、美しく神秘的な女性の姿になっていった。彼女が泉の精霊だろうか。
すると、先ほどよりはっきりと声が響いた。吸い込まれそうな愁いを帯びた瞳がこちらを真っすぐに見つめている。ルカは視線を反らせなかった。

「お願いがあります。この世界を再び救い出してほしいのです」

美しさにしばらく言葉を失っていた。
再び救うって…?

「…失礼しました。以前大空の盾を渡した者とは別人のようですね。とても雰囲気が似ていたもので」

どうもこちらの考えていることは口に出さなくとも解るみたいだ。
大空の盾ってことは、それ多分イルの事かな。前に話を聞いた気がする。

「あら、兄弟だったのですか。では改めて簡単に説明します。よく聞いてください」



彼女は淡々と話し始めた。
一時平和が脅かされたがイルの力により、「氷の世界」は平和を取り戻した。しかし、時が経つにつれまた邪悪な気配が漂っているという。彼女が言うにはこの世界の中央に位置する湖からそれを感じ取ることができるのだとか。それはここ数日ますます強くなり、精霊の使いに相応しい者を探していると今ここでルカに出会ったということなのだ。
ルカは瞬きもせずただ黙って聞いていた。

「そして、たった今この泉にも危機が及ぼうとしているのです。少年、今すぐここを立ち去りなさい。王と兵士を連れて城に戻るのです」

え…今来たばかりなのに?何かが起こるの?

「時間がありません!この泉に不吉な気配が近づいています。王にはこれを見せれば理解してもらえるはずです。さあ、早く!」



***



「…ルカ?大丈夫か?」
気がつくと目の前には心配そうにこちらを覗き込むりゅうたろうの顔があった。あたりを見渡すと。王はまだ泉へ歩き出したばかりだ。目に映るその光景に何故か違和感を覚える。
あれ、そういえば、今まで自分は何をしていたんだろう…?

「まあ平気そうならいいや、なんか変な顔して固まってたから。背中に雪でも入ったかと思って」
「そ、そんなことないよ。平気へい…」
「…ルカ?」

ルカが帽子を被り直そうと頭に手を伸ばすと、あることに気がついた。何かある。先ほどまで何も握っていなかった左手に、何かが握られている。恐る恐る目をやると、虹色にキラキラと輝く見慣れないブローチのようなもの。
なんだこれ…と思考を巡らせた刹那、脳裏に浮かぶは肌の白い美しい女性と彼女の言葉。

時間がありません!泉に不吉な気配が近づいています。さあ早く!

全てを悟った瞬間とはまさにこのことだった。さっきのは夢でも何でもなかったのだ。現実なのだ。
すると、耳に届く先ほどまで無かった音に気がついた。不自然に枝の擦れる音を立てるは周りの木々。何故かうるさいくらいに耳に響く。不思議そうに首をかしげるりゅうたろうを押しのけ、ルカは力一杯に叫んだ。

「王様、行っちゃ駄目!」



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