1章 精霊の願い3

さほど大きくない岩山に囲まれた場所に泉はあった。
正面に崖があるせいか木から雪が落ちる音、泉の湧き出る音がよく響く。もちろんこちらの足音や話し声も。何故か魔物の鳴き声は聞こえずとても神秘的な雰囲気があった。

ルカは先ほどの兵士の頼みを聞くことになり、ノースデン北の精霊の泉にやってきた。テトと名乗ったその兵士の話によると王は天気の良い今日中に泉へ向かいたかったらしいのだが、兵士たちが次々と体調を崩してしまい、護衛出来る者がテトのみになってしまったらしい。この国は特に寒さが厳しく、明日は雪が積もるほど降るのだとか。
王、テト、そしてルカたち一行は泉の正面で足をとめた。

「よっぽど今日じゃなきゃいけない大事な用事だったんですか?」
「そうか、理由をまだ言っていませんでしたね。夢見のオーブをお供えにきたんです」
「えーっ夢見のオーブ?!」
「まじかよ!」

テトの返答に思わず声を上げるルカと魔物たち。テトがその理由を聞きだすと、彼はクスッと笑った。ノースデン王も立派な髭に似合わず何だか申し訳なさそうな顔をして見せた。

「あらら、残念でしたね。この国の最後のオーブは王が直々に買ったものなんですよ」
「それは悪かったな、少年」
「いやいや、自分たちでノフォーまで買いに行きますんで大丈夫です、なあみんな!」

「おうよ、ろまんがオレを呼んでるんだぜ!」
「お前は浪漫から離れろ」
「あたしこう見えてもタフだから、任せて!」

魔物たちの各の反応に、再び王とテトは笑顔になった。



やけにきらきらした装飾のついた箱からノースデン王は石を取り出した。おそらくあれが夢見のオーブなのだろう。王は泉へ一歩一歩慎重ゆっくりと近づいてゆく。ルカたちはその様子を黙って見守っていた。


「おお、思ってたよりきれいだな」
「やっぱり宝石は乙女の憧れよねー」
「女っぽくない奴が言ってもしょうがないよな」
「む、言ったねりゅうたろう!」

そんな仲間たちのやり取りを「静かにしろ!」と小声でたしなめると、ルカの耳へ何かが届いた。遠くで女性が呼んでいるような、そんな声。聞こえた、というより頭の中で響いた、という感覚だ。
ぱっと後ろを振り返っても、それらしき人は誰もいない。周りの人々も何か言葉を発した様子はない。空耳だろうか。



『若者よ、私の声が聞こえますね?』

ルカの心臓は跳ね上がりそうだった。今度ははっきりと聞こえたのだ。先ほどの女性の声が。ゆっくりあたりを再度見渡す。

『驚かずに、と言っても無理はあるでしょうが、どうか私の話を聞いてください。私はこの世界を見守る泉の精霊です』

え、みんなこの声聞こえてないの?

すると時が止まったとでもいうような、不思議な感覚に陥った。ルカの目の前には白い影がはっきり浮かび上がり、自然とそれ以外は目に映らなくなってしまった。



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