重なった偶然

 本社ビルから下界を見下ろす零児に隼が近づいた。足元に広がるおもちゃ箱のような街並みは自分たちの世界とは似ても似つかない。同じ場所に立って同じ景色を見ていたはずなのに住む世界の違いを改めて思い知らされた隼は少し胸に穴が開いたような気持ちになった。
「ここのセキュリティは万全で空調も完璧、おまけに素晴らしい景色ときた」
「何が言いたい?」
 いつもと違う隼の様子を不審に思ったものの零児はいつもの冷静な表情を崩さなかった。
「何でもない、ただそのマフラー部屋では暑くないのか?」
「それを言うならそのスカーフだってそうだろう。赤い布はシンボルだからな」
「私のまあ似たようなものだ」
 はぐらかされたのを感じた隼は追及を諦め黙り込んだ。
 静寂が訪れたのもつかの間、不意に零児が口を開いた。
「君たちのシンボルカラーが赤なのは何か意味があるのか?」
「いや特に無いが」
「私も同じ赤を身に着けて同じく特に意味は無い。偶然が重なったな。こういう偶然も悪くない」
 普段論理的でロマンチックな事なんて考えてなさそうなが珍しい、思わず零児の方に向いた隼はいつもと変わらない様子の零児に、気を使われた事に気付き心の中でお礼を言いつつ、二人は外を眺め続けた。


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