プレゼント

「これを受け取ってくれ」
 零児から渡された箱を開けてみると細部まで凝っており一目で高価だと分かる時計が出てきた。
「これはどういうことだ?」
「早くつけてみてくれ」
 訝しげな隼とは裏腹に少し機嫌の良さそうな零児に押されるよう腕にはめた。丁度良い長さに調整されている。
「見つけたのは偶然だが君に似合うと思い思わず買ってしまった。受け取ってくれ」
「こんな高価そうなもの…」
 普通の人ならとても手が出ないだろう。相手は大企業の社長だ、ある程度アンバランスになるのは最初から分かっていたけれど赤馬零児という人と自分が違う世界に生きている、そんな事実が小さな腕時計を重く感じさせた。折角の好意だもっと素直に喜ばないと、そう思い笑顔を作ろうとするもどこかぎこちないものになってしまった。
「私が好きでやっている事だ気にするな」
「ありがとう、大切に使わせてもらう」
「ならいいが。思った通り君の瞳と良く似合う。それに……」
 時計を見つめる隼を片目に、零児は引き出しからパンフレットを取り出した。
「君がいてくれて助かっている事も多い。一つ相談なんだが君はどちらが良いと思う?」
 万年筆が載ったカタログを広げながら零児は二つを指さした。どちらも甲乙がつけがたいもので本人が使うものだから自分で決めた方が良いのではないか、そう思いつつも片方を選んだ。
「オレは……こっちの方が良いと思う」
「そうか、ありがとう。ではこちらにしよう」
「いいのか?」
 あくまで参考程度にされると思った自分の意見が取り入れられ隼は動揺を隠せなかった。
「ああ、ちょっと仕事で新しいのが必要になってな。自分で選ぶと偏ってしまう」
 それに、としっかり隼の目を見つめなおしながら続けた。
「君は自分の利益に流されたり機嫌を取ろうと上辺だけの言葉を言ってきたりしない。一緒にいると今までと景色が違って見えてくるし何よりも楽しい」
「買いかぶり過ぎだ。オレだっていつ反旗を翻すか分からないぞ?」
「それくらいの逞しさがないと私の隣で立っていられないだろう」
 サプライズでプレゼントを渡すだけだっただろうに咄嗟に機転を利かせ励ましたり敵わない、隼は素直にそう感じた。
「まあそれでもきになるというのなら何か料理でも作ってもらおうか」
「当り前だが舌の肥えていそうな人に出せる料理なんて作れないぞ?」
「私の為に丹精込めた手料理を振る舞ってくれるもよし、慣れない手つきであたふたする姿もよし、どっちに転んでも私は楽しいから何も問題ない」
「嫌な奴め」
 零児のお荷物でしかないのでは、そう思っていたが自分にも何か知らの良いところがあるのだろう、そう思えると腕時計が少し軽く、より愛おしく感じられた隼は先程とは違い心の底から微笑むことが出来た。
「本当にありがとう」
「どういたしまして」
 まだまだ二人の時間は始まったばかりである。これから二人でどのような時を刻んでいけるのか、胸の高鳴る隼であった。


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