梅雨

「あー降ってきちゃった」
 雨がしとしと降ってくる。今日は夕方から雨の予報だったが予報は外れるものだ。家まであと10分もかからないという所で足止めをくらった遊矢と柚子は古い民家の軒先で雨宿りをした。運悪く二人とも傘を持ってきていなかった。
「もう、遊矢がもたもたしてるからよ」
「仕方ないだろ、先生につかまったんだから」
  授業が終わり真っ直ぐ帰っていたら降り始める前に帰れただろう。けれど先生のお手伝い、それも定年間近の先生予報物運びを手伝って欲しいと言われたら断りにくい。
「ごめんなさい、私の八つ当たりだったわ」
  走って帰るのも一つの手だが反対の空は雲が途切れている。一旦止むのを信じて二人は古い民家の軒先で雨宿りすることにした。

「結構濡れちゃったね」
  服が張り付くのが気持ち悪い。ただでさえジメッとした空気なのに服が張り付き余計増している。カラフルな傘を差した人たちが足早に帰っているのを見ながら二人はため息をついた。
「あーすっかり忘れてた」
「私も昨日傘を干してからすっかり忘れちゃった」
「明日も雨なんだろうなー」
「梅雨だから仕方ないって分かっていてけど梅雨の時期ってジメジメして嫌いになるわね」
「ま、梅雨が来ないと夏が来ないし」
  遊矢は濡れた事や空気がジメジメしていることなど気にならないかのように綺麗に咲いている紫陽花を眺めていた。
「梅雨飛び越えて夏がくればいいのに」
 遊矢に釣られて柚子も紫陽花を見つめた。普段通っている道だがこんなにゆっくり眺めたのは初めてだった。いつも視線の中には入っていたが特に意識はしていなかった。雨に負けずに綺麗に咲いている。
「ここにこんなに沢山紫陽花が咲いてたなんて知らなかったわ」
「俺も知らなかった。あっちの紫陽花は赤色であっちの紫陽花は水色。どっちも綺麗だな」
 雨に降られてしまったが遊矢とのゆったりした時間は嫌いじゃない紫陽花を眺める遊矢の顔もどこかしら優しい。いつもの明るくおどけた姿も良いがこういう一面の遊矢も嫌いじゃない。遊矢自身は認めたがらないかもしれないけど、遊矢のそういう一面も柚子は好きだった。

「クシュ」
  自分が濡れていたのをすっかり忘れていた。もう雨も止んだ。傘を閉じはじめた通行人も多い。このまま居残って風邪をひいたら大変だ。遊矢も柚子の様子に気付いたのか柚子の方を向いた。
「もう帰るか」
「そうね、大分冷えてきたし」
 軒下から出ると太陽が二人を照らし、現実に引き戻された。
「あ、虹!雨もそう悪くなかったわね」
「じゃあねまた明日!」
 雨上がりの匂いが体を包み込んだ。 アスファルトがキラキラ光る。まだ梅雨明けには時間がかかるが柚子の足取りは軽かった。


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