春の陽気に包まれながら塾の扉を開けると子ども達が一斉に柚子の方を見た。
「おめでとう!」
 みんな笑顔で拍手をしている。何も思い当たる節が無く困った顔をしている柚子にアユがおそるおそる尋ねた。
「もしかしてまだ聞いてなかったの?」
「ごめんね、何の事か分からないわ」
 新しい塾生が加わってもいないし宝くじが当たったわけでもない。柚子を置いてまた子どもたちはヒソヒソ話をしだした。
「まだ秘密だったのかな〜?まあ言っちゃったものは仕方ないよね」
「どうせすぐバレるんだし」
「怒られたりはしないよ、多分」
「だから一体何の話してるのよ」
 4人は一斉に振り返り柚子を見た。
「さっき電話してるの聞こえちゃったんだけど、塾長と遊矢お兄ちゃんのお母さん結婚するんだって!」
「え?」
 みんないきなり何を言い出したのか分からず固まってしまった。今まで二人で生きてきて、お互いのことは何となく分かっていたつもりでいたけれどそんな秘密を抱えていたなんて想像もしていなかった。
「てっきり榊柚子になると思ってたけどまさかの柊遊矢か〜」
「これから遊矢お兄ちゃんと柚子お姉ちゃん一つ屋根の下で暮らすんだね。何だかすごい!」
 夢見るような眼差しをしたアユを見て柚子は現実に引き戻された。その様子を見て奏良は面白くてたまらなさそうに背中を叩いた。
「ちょっと素良?」
「よかったね柚子、もし遊矢を誰かに取られちゃっても名字は一緒だし、もう他人じゃなくなるもんね」
「誰かに取られるって何言ってるのよ。私たちはそんなんじゃ」
 慌ててそう反論する柚子の反応に慣れている一同は気にせず続けた。
「まだそんな事言ってるよバレバレなのに」
「もうちょっと素直になればいいのにね」
 上の空になったり顔を赤くしたり忙しそうな柚子の反応に子どもたちは満足そうな顔をした。
「まさか柚子お姉ちゃんもお父さんに先越されるなんて思ってなかったのね」
「今までアクション起こさなかった柚子が悪いんだよ。僕は何度もチャンスあげたのに」
「でもお似合いの……同い年だから双子、だよね」
 これからどうやって接していこう……親は親、子は子だしこれまで通りの関係でいれればいいけど……でもそれだけじゃ駄目だし……。そう考えていると遊矢はこの事を知っているのか気になった。お父さんの事もあるし、落ち込んだりショックを受けたりしていないか。そう考えると急に遊矢の事が心配になった。
「遊矢はこのこと知っているの?」
「え?遊矢お兄ちゃん?知ってるよさっきまで一緒にいたもん」
「何て言ってた?」
「別に何とも」
 落ち込んでいない、それを聞いてほっとした柚子は何だか気が抜けてため息を付いた。
「良かった、それなら安心よ」
 そうしているうちに扉が開き、遊矢が遅れてやって来た。
「遅れてごめん。玄関でどうしたんだ?」
 こんな所で騒いで何かあったのか不思議そうな顔で柚子の方を見る遊矢に恐る恐る、しかし怒っている事がちゃんと伝わるよう背筋を正しながら言った。
「ちょっと遊矢、知ってたなら何で教えてくれなかったの」
「一体なんの話?」
「再婚のことよ。私だけ知らなかったじゃない」
「再婚?誰が?」
「洋子さんとお父さんのよ」
 そういう事かと察した遊矢は子ども達の方をじっと見た。
「柚子、今日何月何日か知ってるか」
「えっと……あっ」
 全てを理解した柚子はハリセンを鳴らしながらみんなの方を振り返った。
「だってすぐばれると思って」
「ちょっと調子乗っちゃってごめんなさい」
 しゅんと反省している。別に誰も悲しんだり傷付いていない、少し驚いた位でかわいい嘘だ。怒る気にもなれずまんまと騙された自分におかしくなった。
「みんな演技上手ね役者さんになれそう。でも次は私の番よ覚悟しててよね」
「今日はエイプリルフールなんだから普通疑うでしょ」
 呆れ顔をする遊矢に奏良は柚子に聞こえるギリギリの大きさで耳打ちをした。
「そう言わないであげてよ。柚子ってば遊矢の事となると冷静でいられなくなるんだから」
「素良!」
「そろそろ始めるぞー」
 遊矢の一声で子どもたちは急いで準備を始めた。
「柚子も早く来いよー」
「今行くわよ」
 遊矢にはとびっきりの嘘を用意しよう、そう考えながら急いで玄関を後にした。


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