アクション

 素良が入塾してから数日が経った。この波が続いて生徒がもっと増えればいいのに、と思いながら柚子は貯まった宿題を進めているとドアが開いた。
「あら素良君早いのね。ごめんね今ちょっと忙しくて、始まるまで待っててね」
 柚子が必死に宿題を進めるなか、遊矢は漫画を読みながら笑いを押し殺している。その態度にイラッときた柚子は大声で呼びかけた。
「ねえ遊矢、遊ぶのは勝手だけど宿題終わってるんでしょうね?」
「もちろんまだだけど?」
 予想通りの返答と何食わぬ顔で漫画に視線を戻す遊矢にため息をつきながら言った。遊矢が真面目に授業を受けないのも宿題を計画的に進めないのも今に始まった事ではないけれど、開き直られたら気になる。
「明日出来てないって泣きついてきても見せてあげないからね。家帰ったらちゃんとやるのよ」
「分かってる分かってる」
 口ではそう言っても明日宿題を見せる事になると簡単に予想がつきもう怒る気力も無くなった。遊矢にもっとまじめになってもらいたい反面、頼られているというのも少し優越感に浸れて悪くない、自分で自分の気持ちの整理が出来ず柚子は深いため息をついた。そんな二人の様子を静かに聞いていた素良は楽しいことを思いついたような表情を浮かべながら柚子に問いかけた。
「ねえ柚子お姉ちゃんって遊矢の彼女なの?」
 さすがに二度目だから以前のように焦りはせずに冷静に対応する余裕を持てた。
「見ての通り違うわよ。何でそんな事聞くの?」
 以前は全力で否定した遊矢も、もう付き合いきれないという様子で顔も動かさず違う違うとだけ呟いている。そんな遊矢の様子を眺めながら言った。
「僕遊矢の友達になったからね、その辺りも知っておかないとって思って」
「あんまり人をからかうものじゃないわよ」
 そう言いながら作業を再開する柚子の背後にそっと近づき囁いた。
「じゃあ柚子お姉ちゃんの片思いなんだ。凄く分かりやすいのにね、遊矢全然気づいていないし、ああ見えて遊矢って案外鈍いんだね」
 しつこい、と睨みつけられてもひるまず、ニコっと笑いながら続けた。
「それとも気付いてるけど気付かないふりしてるのかな?実はもう好きな人がいたりして」
「何言ってるのそんな訳ないでしょ」
 そう言いながら一抹の不安も感じた柚子の声は先程までの元気はない。遊矢が人の気持ちに鈍感な人だとは思わないし、恋愛事に関して何の興味が無いのか気付いていて流されているのか。急に黙り込んだ柚子を見て眉を下げながら苦笑した素良はゆっくりと離れながら言った。
「いつまでもグズグズしてると横から掻っ攫われちゃうよ?」
「あなたに言われなくても私だって」
 いい加減腹が立ち無意識のうちに大声を出してしまった。自分でも驚いた柚子は慌てて口を押えたが後の祭り、奏良は固まってしまった。
「ご、ごめんね素良君怒るつもりは」
 しどろもどろになりながら柚子は謝ったが奏良は下を向いたまま動かない。そんな二人を見ていつの間にか起き上がっていた遊矢は、素良の肩をポンポン叩きながら言った。
「柚子は本気で怒ると怖いからな、怒らせないようにしないとな。ほら笑顔笑顔」
 こそっと二人の様子をうかがっていた素良は、柚子がムッとした表情を浮かべたタイミングで顔を上げた。
「やっぱり遊矢は柚子の事よく知ってるんだね」
「そりゃそうだろ」
 当り前のように言われたのを喜んでいいのか分からない柚子は切ない気持ちに包まれた。「遊矢も柚子お姉ちゃんの事あんまり怒らしちゃだめだよ?ねえそれより早くデュエルしようよ。もうすぐ時間だよね?」
 遊矢は漫画を片付けデュエルをする準備を始めた。もう開始の時間が近づいてきている。まだ来ていない子供たちももうすぐ来るだろう。よし、と気合を入れながら柚子も宿題を片付け始めた。遊矢の態度ははっきりしないけれど多分他のクラスメートよりは親しいし、掻っ攫われないうちにアクションを起こさないといけない。なあなあだった気持ちに一区切りつけさせてくれた素良に心の中で感謝しながら柚子は塾の準備を始めた。


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