穏やかに
「どれにしましょうか…」
目の前の本棚にずらりと並んだ本と睨み合いをしながらシセラは、うーん、と小さく唸った。
レイの下に住み始めて約数ヶ月。毎日の家事程度の仕事にだいぶ慣れてきたシセラは、遅くても昼過ぎまでにはそれらを終えられるようになっていた。
他に仕事を言いつけられなければ、午後からは自由。そうなるとシセラは、気になる本を読もうと、まず真っ先にこの書架に足を運んでいた。
最近では、どんな内容の本がどの本棚にあるのかくらいまで、大体はわかるようになっていた。
そして、シセラは今、数多ある蔵書の中でも数少ない、詩集が収めてある棚の前にいた。
「…あ」
薄い背表紙を一冊一冊吟味していたら、ある本が目に留まる。
茶色の表紙に、金色の文字。書かれている詩人は、どこかで聞いたことがある名前だった。
丁寧な手つきで取り出し、初めのページを開いてみる。そこに綴られた詩は、不思議と懐かしかった。
「……あっ…!」
ようやく思い出したのか、シセラは目を嬉しそうに輝かせる。
迷わず、この本を読もう、と決めた。
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