「シセラ、」
レイが、窘めるような口調でシセラを呼ぶ。
しかし、呼ばれた本人は、ぼう、っとしたままの状態で、カップにコーヒーを注いでいる。
「シセラ!」
「!―あ、はいっ」
レイが強い口調になり、そこでようやく気がついた。
コーヒーは、表面張力を起こし、辛うじて零れないでいた。
「あ、あの、ごめんなさい。」
「いや、いい」
レイはシセラを一瞥すると、本に目を落とす。
そして、すぐにまた、シセラを見上げた。
「…来い」
しかし、シセラはまた上の空で、気付いていない様子だった。
「シセラ」
「あ、はい、マスター」
「来い、と言ったんだ」
少し険しい表情に不安を覚えながらも、言われるがままに、シセラは、レイに一歩近付く。
それを見て、レイがソファから立ち上がり、シセラは見上げるように、自分の主人を見る。
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