神様アイロニー
"蟻"がせっせと忙しなく動き回り、村外れの建物に何かを運びいれている。
正確には"蟻"ではなく人間で、"何か"というのは肉やら果物やらの供物とでも言われるべきものだった。
それらが運び込まれる建物は、神殿と呼ばれ、村人たちが住む、良く言えば簡素、悪く言えば古びた住処とは比較のしようもないほど立派で丈夫そうな造りをしている。
この、決して裕福そうには見えない村にそれが出来たのは少し前のこと。
天候に恵まれず、不作が続いた時、神の"預言"によって救われたのが、神殿が建てられた理由だった。
それから、しばらくは神殿は使われもせず、人すら滅多に来なかったのだが。
今、再び、村人はあまり裕福とは言えない自分たちの収穫を、"神"と崇める、見も知りもしないモノに捧げていた。
その様子を、そこから遠く離れた、空の上から見下ろしている人物がいた。
背後から、一人の、見目は可憐な少女が近づき、話しかける。
「…何を見てるの、フレイ?」
フレイ、と呼ばれた人物は、口角を上げて地上で働く村人を指差す。
「アイツ等を見てるだけだよ、フレイヤ」
フレイの言葉を受け、フレイヤも地上を見下ろす。それから、目を微かに険しくして眉を顰めた。
「また、何かしたの?」
呆れ半分、怒り半分の声。フレイは気にすることなく渇いた笑いを発した。
「別に。以前、ちょっと助言したきり何も」
「それでアレが建てられたのよね。それからずっと放ったらかしだったのに、今更何かしらね」
「さあ?」
ただ、とようやくフレイヤの方を見ると、口元だけの笑みを満面に広げる。愉快そうな、小馬鹿にしたようなフレイの表情がフレイヤの瞳に映った。
「もうすぐ、聖夜祭だから」
「…そうね」
納得した顔付きで、フレイヤは村人たちを眺め始める。フレイも、数秒後に地上に視線を戻した。
「…それじゃあ、あなたはまたあの人達に何かしてあげるのかしら?」
フレイヤの呟きのような問いに、
「さあね。面白ければ、何かしてやってもいいかな」
後は、捧げ物次第で、と素っ気なく返す。
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