不思議な夜に




ザァザァと、梅雨時でもない4月に、土砂降りの雨が降る。

私は、滴を零す空を仰いだ。濡れて額に貼り付いた前髪の水滴が頬を伝い、なんだか涙を流しているようにも見えなくもない。

…実際、私は泣いていたのかもしれない。

服が、髪が、肌が、全て雨に濡れるのも気にせず、一人寂しげに佇んでいるのはなんて滑稽だろう。

それが、夜中の二時過ぎともなれば尚更だった。


"家出"


それが、私がこんな天気の、こんな時間に街中を彷徨っている理由だった。

腕を目一杯伸ばし、深呼吸をする。濡れた空気が胸の奥に溜まり、モヤモヤが一層増した。



もういっそ、このまま死んでしまおうか。



顔にへばり付く髪の毛をどけながら本当に何となく、そう思っていると、

「…なぁ」

不意に声をかけられ、思考が遮断された。

「っわ、…誰?」

反射的にそちらの方を向くと、夜にに溶け込むような闇色のマントに、露出している肌だけ異様に白い、男が見下ろしていた。

人間離れした顔に思わず見とれてしまう。どこか非現実的な雰囲気が、さらに美しさを増長させているんだと思う。

とにかく、ただひたすらに綺麗だった。


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