"暖"もりを感じれば
「おい」
夏月は部屋に入るなり、自分のベッドでスヤスヤと寝る少女を見て開口一番にそう言った。
掛け布団を、その意味を成さない位置にまではねのけ、安らかな寝息を立てている少女。
呆れが混じったその声に、少女はうっすら目を開く。
「…」
そして、また夢の世界へ―
「寝るな、馬鹿」
戻ろうとするのを、夏月の声に阻まれた。
「…んぅ」
ふかふかのマットレスの上で大きく伸びをし、
「…」
そして放心する。
「自分のベッドで寝ろよ。―爽」
爽、と呼ばれた少女は寝転んだまま、目だけを夏月に向ける。
「…ん」
承諾とも拒否ともつかない反応を見せると、爽はゴロン、と寝返りを打った。
うつ伏せになり、表情が見えなくなる。
「退けよ」
夏月が声を低くし、苛立ちを表して爽を脅す。
だが爽は怯む様子もなく、腕立て伏せの要領で体を起こすとその場に座り込む。
そして、
「…一緒に寝よ」
果てしない無表情を浮かべたまま、そう言った。
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