「…ん…?」
少し遠く、道の脇にしゃがみ込む人影を捉え、ハルは足を止めた。
両足を抱え、顔を埋めている。色の濃い髪が電灯に照らされていた。
死人にも見える人影は、ハルが近付いても動く気配がない。
一方ハルも、その人影を気にする様子は微塵もみせず前を通り過ぎようとした。
「―」
すると、服を引かれる違和感。
立ち止まり見下ろせば、虚ろな瞳が髪の隙間から覗いていた。
「離せ。ぶっ殺すよ?」
低い声で脅すが、少女は力無く首をふるふると振った。
「…離せ、つってんだよ」
ハルの危険さは衆知のもの。だから、ここまで馬鹿なことをする者はいない。
それ以前に、彼に近付くものすら、普段は一人もいないのだ。
夜遅いからだろうか。襲う眠気に苛立ちが更に増す。
「…め…」
「聞こえねえよ」
しつこいな、とぼやくとまるでマジックのように銃を作り出し、少女の鼻先に押し付けた。
「は、な、せ。死にてえのか?」
最終警告。
ようやく、少女がしっかりと掴んでいた服を離す。
「初めからそうやって大人しく言うこと聞いとけばよかったんだよ」
ハルは人差し指に僅かに力を込める。
少女を生かすか殺すか迷っている様子だった。
しかし、死と背中合わせのこの状態であっても少女は怯むことはなく、
「…な…!?」
両手で包み込むように、ハルの手を、銃のグリップごと優しく握った。
その手は、ハルが振り払う前に地面に落ちる。
そして、少女の体も、崩れるように倒れた。
くの字に折れた肢体。その中心、つまり腹部にはどす黒い血の染みが出来ていた。
「―っ!」
ハルが予想だにしなかった少女の状態に身構えるのと、
「きゃぁぁぁぁあっ!」
路地に悲鳴が響くのはほぼ同時だった。
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