5th Dream
「い、嫌ぁっ…!」
途切れ途切れの悲鳴をあげ、小さな女の子が必死になって走っていた。
時折後方を確認するように振り返り、犬のぬいぐるみのような"鬼"がまだ追いかけているのを見ると、涙をこぼしながら速度をあげる。
「なんで…っ」
なんでこうなっちゃったの?
心の中で悲痛に叫ぶ。
『―鬼ごっこをしよう』
犬のぬいぐるみが喋った驚きも手伝い、思わず頷いていた場面が思い出される。
『それじゃあ、僕が鬼ね』
再度振り返れば、"鬼"はすぐそこまできていた。先ほどまで全く追いつく様子が無かったのに、ほんの一瞬で何十メートルもの距離が縮まっていた。
「ひっ―!」
短い悲鳴と、
「追いついたっ」
嬉しげな声が重なった。
犬が口を開けて飛びかかる。
ふわふわの、愛らしい見た目からは想像もつかないような鋭い牙が、鮫のようにずらりと並んでいた。
「…!」
もう悲鳴すら出せないほど追い詰められた少女は、その場に崩れ落ち目をきつく閉じた。
「捕まえ―ギャンッ!」
犬の言葉が鳴き声に変わり、直後ドサリと何かが落ちた音が聞こえてくる。
「…」
口の中で十数えた女の子は、恐る恐る顔を上げた。
視界に映ったのは二つの影。一つは背が高く、武器を片手に持っている。もう一つは小柄で見慣れない服を着ていた。
「大丈夫か?」
視線に気付いた、背の高い男がこちらを見る。次に隣の少女も振り向いて、傍に寄ってきてしゃがみ込んだ。
「怪我は、無い?」
女の子はコクン、と小さく首を振る。少女は安堵の表情を見せた。
「良かったな」
男の低い優しい声が降ってくる。
「うん、」
少女が返事をすると、
『さぁ、何して遊ぶ?』
小さな女の子に聞いた。
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