不埒な視線に浮かされて



※未来軸 プロヒif要素あり




 お前らやっぱ距離近いよな、そんな声に顔をあげると、隅っこでぼんやりしていた私──いや、私たちにみんなの視線が集まっていた。

 今日は同窓会というか、定期的に開催される元雄英A組の飲み会で。現在は同棲している恋人の焦凍くんと一緒に参加しているけれど、その彼は今、私の肩に寄りかかってぼうっとしている。
 言われて気付いたけれど、うん、近い、よね。おうちでの距離感に慣れてしまっていたものの、これは人前じゃなかなかに恥ずかしい距離だ。慌ててみんなに「ごめんね」と謝ると、「公認なんだからいいって」「いつものことじゃん」なんて笑われて、余計に恥ずかしくなってしまった。


「焦凍くん」
「ん」


 小声で話しかけると、どこかとろんとした視線が私に絡んだ。どうやら結構、酔っ払ってしまっているようで。なかなか飲んでたもんな、そう思いながら「ちょっと離れようよ」とささやくと、その目がわかりやすく不満に染まった。


「……なんで」
「みんな見てるよ」


 視線がいったん外されたかと思うと、床に投げ出していた手をするりと取られる。……熱い。お酒のせいか上がっている体温に、図らずも鼓動が速くなる。


「なんかまずいことでもあんのか」


 じっと顔を覗き込まれて、指を丁寧に絡められて。ぎゅ、と握られて触れた、汗ばんだ手のひら。手なんて数えきれないほど繋いできたのに、より近づいてしまった距離だとか、周りの面白がるような視線もあいまって、ばくばくと心臓が暴れだしてしまう。体温がじわじわ上がっていくのを感じながら、ひかえめに手を握り返した。


「ま、まずいっていうか、ちょっと恥ずかしいよ」
「俺は恥ずかしくねぇ」
「う……」


 そういうことじゃなくて。けれどこうなればなかなか会話は成り立たないと、これまでの経験でよく知っている。逃げるみたいに顔を逸らすと、ぐいと腰を引き寄せられてしまった。


「あの、焦凍、くん……」
「……近くにいてぇ、なまえの」


 俯いた私の耳元に、唇が寄せられているのがわかる。熱い吐息にのせられた低音が、「だめか?」なんて、甘く深く響いてくるから。「……だめじゃない」気付いたらそう答えていて、焦凍くんが小さく笑った気配がした。
 
 さっきまで寄りかかられていただけだったのに、手を繋がれて、腰まで抱かれて──すこし口を出したばかりに、より一層詰まってしまった距離。
 熱いねえ、そんな冷やかしを浴びて恥ずかしいやら申し訳ないやらだけど、引っついた焦凍くんは満足気にみえて……つい口元が緩んでしまったりなんかするのは、どうかみんなには許してもらいたいな、なんて。そんなことを思いながら、わずかに焦凍くんのほうに身体を寄せた。


20201216



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