とっておきドルチェ

 ふわふわした緑の髪を揺らしながら、ランポウくんはあつい紅茶を啜っている。丁度さっき焼き上がったビスケットも出してあげると、沈んでいたその表情はみるみるうちに明るくなっていった。機を見て「また怒られちゃったの?」と訊いてみたけれど、彼はふいと顔を背けてしまう。

「……俺様、悪くないんだものね」

 いつもと変わらない調子に「そっかそっか」と笑って返しながら、私の分の紅茶も用意して、ランポウくんの向かいに腰掛けた。
 守護者の方々に叱られる度に、ランポウくんはしがない使用人である私のところに来て、愚痴をこぼしてお菓子を食べて、帰っていく。敬語もいらないと言われたお陰で仲は深まっていき、だんだんと日常になりつつあるこんな時間が、私は好きだった。
 ビスケットをさくさく食べるその姿を眺めながら、そういえば先週も同じものを出したなと思い至って。「色んなお菓子出してあげられなくてごめんね」と言うと、ランポウくんは少し口を尖らせた。

「……別に、お菓子が目当てじゃないんだものね」
「えっ、じゃあ、どうして私なんかの所に来るの?」

 ぴたり、ランポウくんの動きが止まる。どうしたのかしらと見つめていると、まだほわほわと湯気が立ち昇る紅茶を一気に飲み干してしまうから、つい「わあ」と声が漏れた。そのまま勢いよく立ち上がったランポウくんは、その紅茶が余程熱かったのだろうか、すこし顔が赤い。

「仕方ないから! 今度は俺様がお菓子を持ってきてやるんだものね!」

 そんなことを突然大きな声で言ってから、部屋を飛び出していってしまう、から。私は、開けっぱなしのドアを呆然と見つめる事しかできなかった。

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