その明澄を憎めない
冨岡先生は時折、横暴だった。「みょうじ、手伝え」のひとことだけで私を駆り出すのだ。私だってあなたと同じ教師であって、きっと同じだけ業務がある。体育倉庫の掃除なんかしている場合ではない。でも彼は言い返す暇もなくさっさと行ってしまうので、無視なんて心証の悪いことを先輩相手にしたくない私は、残念ながら話を聞かないその背中についていくほかなかった。
「どうして、いつも私なんか選ぶんですか……」
無事追いつくとやっぱり直ぐにホウキを押し付けられて、つめたく薄暗い体育倉庫に誘われる。私はそんなに暇に見えるだろうかと、少し肩を落としながら投げかけた問いに、冨岡先生はゆっくり振り返った。真っ直ぐな視線に少しどきりとする。
「お前がいいからだ」
かっ、と顔に血が集まった。違う、違うよ。すぐに目線を外した彼の涼しい横顔に、きっと他意はない。微塵もない。けれど無駄に顔がいい男が言うセリフにしては、殺傷能力が高すぎた。
「……どうした? 突然固まって」
「……知りません! 冨岡先生なんか知らない!」
ホウキを突っ返して、倉庫を飛び出す。秋晴れが憎らしいほど眩しかった。この言葉足らずめ。