ルビーレッドに沈む

 ねえ、と少し気怠げな背中に声をかける。Gは軽く首を捻って、その整った横顔と流れるような視線を私の方に寄越した。「何だ」短い返事と共に、彼の手元にあった灰皿にタバコが押し付けられて。小さく音を立てて、煙が程なくして消えた。

「どうして……私なんかのそばに、Gは居てくれるの?」

 散々膨らませた不安を、私が吐き出してしまうのとほとんど同時に。Gは、短く息を吐いて笑った。

「どうした、いきなり」

 Gはまだ、こちらを向いてはくれない。この人はいつもこうだった。あなたがそんなだから不安になるんだと、そう言ってやりたいけれど、そんな気力は残念ながら今の私にはなかった。声色を変えないようにしながら「なんでもない、忘れて」とこちらからも背中を向けてやると、「まあ待てよ」と床を叩く音。
 こつこつと向かってくるそれが足音だと、気付いたのは真後ろに迫ってからだった。振り返る一拍前、こわばる肩に手のひらが乗せられた。耳元に、唇が寄せられる。

「……そうしたいからだよ。俺が」

 びくり、肩が跳ね上がった。頭の芯まで甘く響く低音が「それ以上の理由が要るか?」なんて、吐息まじりに問いかけてくる。置かれたままの手からシャツ越しに温もりが染み込んで、じわじわと体温が上がっていく。
 まるで導かれたみたいにふるふると小さく首を振ると、そのままするりと後ろから包み込まれて。かるく髪に唇を落とされて、「愛してる」そう囁かれてしまえば、私はまた彼に絆されてしまうのだ。


ツイッターで、相互さんにセリフやシチュエーションの案をいただいたお話でした。ありがとうございました!



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