手のひらに誂える愛

「ねえ、恭弥さん」

 彼を呼んだ声は、まるで不安を写し込んだみたいに小さく震えた。恭弥さんの顔がわずかに動いて、きっとその視界の端に私をとらえている。それが彼なりの返事だと知っていたから、続けた。

「どうして、私なんかと一緒に居てくれるの」

 抱え続けたそんな疑問を、とうとう抱え切れなかなりそうだった。いつも気高く強くある恭弥さんと、さしたる取り柄もない私。
 恭弥さんの表情は、しばらく変わらなかった。けれどソファにうずくまる私に歩み寄りながら「……驚いたな」とため息混じりに溢す。

「……え?」
「僕のすることに、君は難癖をつけるのかい」

 ソファが二人分の重みを受けて、柔らかく沈み込む。するりと髪に触れた手に導かれるみたいに俯いていた顔を上げると、その切れ長の目は細められて、黒く深くかがやく瞳が私を射抜いていた。
 毛先を弄んでいた手が、流れるように頬にすべる。すりすりと親指で撫ぜられて、擽ったさについ肩を竦めた。

「なまえは、僕が選んだひとだ。貶めるような真似は許さないよ、誰であってもね」

 恭弥さん、またそう呼ぼうとしたけれど。彼のきれいな指が唇をふにふにと押しつぶすから、それは喉でつっかえて止まってしまった。

「解ったら、黙って僕のそばにいなよ」


ツイッターで、相互さんをイメージして書いたお話でした。ありがとうございました!



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