一等あまくてすこしにがい

太陽みたいな、我妻くんの色が好きだ。どこにいたってきらきら眩しいその黄金色が、大好き。それから、いっとう羨ましい。
前に「我妻くんの色、いいなぁ。私も雷に打たれてみようかな?」なんて彼に言ったら、「何言ってんの!?ダメ!」と血相を変えて言われてしまったから、それはできないみたい。だけどやっぱり、羨ましいの。


そんなとき、恋柱様の美しい御髪の色は桜餅のおかげなんだと教えてもらった。こんなに素敵で希望のある話を聞いて、心が弾まないわけがない。

買い物を済ませた後、蝶屋敷の縁側に座る我妻くんを丁度見つけて、挨拶を交わしてから隣に座った。


「ねえ、我妻くん。恋柱様の御髪ってね、桜餅をたくさん食べたから、あんなに綺麗な色をしているんだって」
「へえ、そうなんだ」
「うん。だからね」


突飛な話に首を傾げる我妻くんの前に、さっき買い込んできたべっこう飴を懐から出すと。その量に、彼は裏返った声を漏らした。


「私もべっこう飴いっぱい食べれば、我妻くんと同じ髪色になれるかなぁ?」


きらきら、透ける瞳が私を見つめて、それからゆるく蕩けた。それはべっこう飴にそっくりで、でもやっぱり違う。もっともっと、美しい。


「…ねえ。君は、そのままでいいよ」
「ううん。…だめだよ」


だってね。太陽を全部吸い込んだみたいなその色のおかげで、私はいつだって見つけられるのに。我妻くんは、きらめかない私を見つけてなんかくれないでしょ。
たくさんの女の子のうちの一人になって、溶け込んでしまうなんて。そんなの、嫌でしょ。


「…他の女の子と一緒は、嫌」


渦巻く気持ちをなんとか言葉にすると、我妻くんは目をまん丸にして、それから甘ったるく微笑んだ。


「一緒なんかじゃないよ」
「…どうして?」
「君から聴こえるいっとう甘い音を、俺が聴き逃す筈ないでしょ」


「ええ、甘いの?私の音って」
「うん、甘いよ、すっごくさ」


あのね。こんなに私の心を掴んで離さない我妻くんが羨ましいから、黄金色が欲しかったの。でも好きなのは、やっぱり色だけじゃないや。

そんなことを考えていると、我妻くんがさっと頬を染める。ねえ、と控えめに話しかけてくるから首を傾げると、心なしかもじもじしながら彼は続けた。


「こんな音聴いたことがなかったから、今迄わからなかったんだけど」
「…うん」
「もしかして……俺と、結婚してくれるの?」
「ふ、あはは」
「え、待って、なに笑ってんの!?」


甲高い声を上げる我妻くんを他所に、べっこう飴をひとつ口に入れて、からころと転がす。
ちょっと膨れっ面でこっちを見ているけど、ねえ、きっと聴こえてるんでしょ。いつもより速くなった、私の鼓動。


「まだ、しないよ」
「…まだ?」
「そう、まだ。」


真っ青な空を見詰めながらそう溢すと、放り出していた右手に柔らかい体温が重ねられて。こっそり握り返すと、我妻くんからも甘い音がしたような、そんな気がした。





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