きっとぼくらは眠らない

「ねぇ、人って死んだらどこに行くのかな」
「え!?なに突然!」


目の前に広がるのは、底の抜けた空と高い雲。ゆっくりゆっくり流れるそれを、私たちは年甲斐もなく、公園のブランコを揺らしながら眺めていた。隣にいた善逸が揺れるのをやめて、私を慌てたような目で見つめてくる。


「いや、ふと思っただけだよ。そんなおっきな声出してどうしたの」
「なんていうか…死ぬとか、なんか心臓に悪いだろ」


ごめんごめん、と言いながら彼から目線を外して、また柔らかそうな雲に想いを馳せる。
天国だとか、地獄だとか、はたまた輪廻転生だとか。死後のことがわからないからこそ、人はあらゆる仮説を立てる。


「…生まれ変わるんじゃない?」
「え?」
「だから…死んだら、って話」


またブランコを揺らし始めた善逸は、さっきまでの私と同じように雲を眺めて。私の目を見ないで、そんなことを言う。もし死んだら、なんて縁起でもないことを言ったから、ちょっと機嫌を損ねてしまったのかもしれない。


「転生、ね。するのかなぁ」
「するよ、きっと」


どこかしっかりした善逸の声は、そんなに大きくなかったはずなのに、私の耳に深く響いた。


「そっか。じゃあ、前世があって、来世があるって思うんだ? 善逸は」
「…ま、そんなとこかな」


きぃ、と一際耳障りな音を立てて、善逸の乗るブランコがもっと大きく揺れ始める。「俺さぁ、お前に」と口を開いた善逸の声まで、ゆらゆら揺れた。


「来世でまた会いたい」


ほとんど揺れるのをやめていた自分のブランコを、地面に靴をぶつけて止める。ざり、と鳴った音にこちらを向いた善逸の瞳は、喩えようもない程に優しげで、甘く蕩けた蜂蜜みたいだった。私の心臓が跳ねたのが聴こえたのか、善逸も数回音を立ててそのブランコを止める。音が消えた空間でしばらく見つめ合って、それから。
こんな会話、善逸とした覚えはないのに。何か知ってるみたいに、私の唇がひとりでに動いた。


「来世でも会いたい、の間違いでしょ?」


風が砂を巻き上げるみたいな音が、二人を包んで。善逸は面食らったみたいに目を丸くしてから、目を閉じて口許を緩めた。


「…ふふ、そうだった、ね」


慈しむような、愛おしむような…いや、まるで懐かしむようなその声を、ずっと前から知っているんじゃないか、そんな気がする。こんなことが、前にもあった。


「ねぇ善逸、私たち、前世で出会ってたりしたのかな」


そう言うと、善逸は私を見て微笑んでから、またブランコを揺らした。

きぃ、きぃ、規則的な音を数回響かせる。それから、「どう思う?」なんて、こちらを見ないまま、小さな小さな声で返してきた。




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