SSつめあわせ

静謐

※ほの暗い 未来編のはなし 彼は死んでいないので死ねたじゃないと言い張る




 眼下の彼は白い花に埋もれている。それらはまるで、ひどく静かに横たわる彼の肌から貰ったような色をしていた。瑞々しく、かがやく白。植物も立派な生き物だとは以前から思っていたけれど、今迄に見たどんな花よりも生きていた。

 それはきっと。花たちを侍らせる彼が、まるでつくりもののようだから。ぴんと伸びた微動だにしない睫毛。なめらかな冷たさを湛える肌。彫刻のように美しく、蝋人形のように薄ら寒いそのどれもを、私は知らない。本当に。わずかばかりも震えない睫毛も、弧をえがかない唇も、私を映すことのない瞳も。沈黙を貫くそのどれもが、しらない物だった。

 消え入るような声で呼んだ名前を、木の葉のさざめきが掠め取っていく。待って、返してよ。そう言おうとして、やめた。

 大空のようなひとだった。どれだけ荒れ狂おうと、哀しみに沈もうと、過ぎ去ってしまえばいとも簡単に静寂を取り戻している、空。其処には何も残らない。初めから何も存在しなかったかのように、抜けるような青に包まれるだけで。
 大空のような綱吉さんは、何も遺してくれなかった。

 目を閉じる。柔い風に包まれる。ねえ、綱吉さんに抱き締められているみたい、って言ったら。いつかそうしてくれたように、甘く優しく、笑ってくれる?


「……綱吉さん」


 攫われずに済んだ情けない声が、まっすぐに駆けていった。でも寝起きの悪い綱吉さんのことだから、いつまでも眠ったままなんだろうね。だからね、全て終わったらきっと私も眠らせて。ずっと、あなたの隣で。




診断メーカー・新刊書き出しったー
「眼下の彼は白い花に埋もれている。」より




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