SSつめあわせ

身勝手でわがまま

 目の前の男に恋をしている、と気づいてしまった。

 私はきっと、王子様のようなひとが好きなのだろうと思っていた。いつだって優しくて、たくさん甘やかしてくれるようなひと。
 ……だから。恋をするわけがないと思っていた。ぶっきらぼうで言葉遣いだって悪くて、私を女の子扱いしてくれないような、こんなやつに。
 でも、獄寺くんが悪いんだ。目を引く髪や瞳の色だけじゃない。頼み込めば勉強を教えてくれる優しさだって、シャーペンを動かす指輪だらけの存外細い指だって、整った顔立ちに、ちかくで見るとよくわかる長いまつげだって。


「……なにこっち見てんだよ、プリント見ろよ」


 こんな、白い頬に赤みが差した、滅多に見られない姿だって。彼はきっと王子様なんかじゃないのに、知れば知るほど心を掴んで離してくれないから。シャーペンでおでこを小突かれながら、ひとり歩きする恋情に唇を噛んだ。





診断メーカー・新刊書き出しったー「目の前の男に恋をしている、と気づいてしまった。」より



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