SSつめあわせ

トロイメライ


さかた、ぎんとき。
万事屋の隅で小さく呟くと、ごくごく小さな呟きだったはずなのに、それを拾ったご本人様が、私に気だるそうな視線を寄越した。
「おめー今銀さんのこと呼んだ?」
「いや、呼んだわけじゃない」
「ンだよ、フルネームとか気になんじゃねェか」
「銀さんに届かせようとしてないもんね。独り言」
ふぅん、と言って彼は起き上がり、机に置いてあったいちご牛乳を一口だけ飲んだ。
「なんで人のフルネームなんか呟くんだよ」
「…それは、まあ、色々」
「次からなまえって呼んでやんねーぞ。みょうじなまえさんって呼ぶぞオイ」
眉をひそめて銀さんの方を見ると、彼は首をかしげた。
その仕草がなんだか可愛らしくて、ふっと頬が緩んだ。
「…好きなものって、フルネームこそ愛しくならない?」
「…物扱いですかコノヤロー」
そう呟いて銀さんは前髪をくしゃくしゃしている。照れてるな、あれは。
「まァわかんなくもねェな」
「ん?」
「みょうじなまえって口に出すと、なんか、すげェいいな」
私は少し顔を背けて、にやける口元を正してから、銀さんにまた視線を向けた。
「…坂田、銀時さん」
「なんですか、みょうじなまえさん」
くすくす、微妙な距離を開けて、私たちは笑いあった。
すると銀さんは徐に立ち上がって、隅っこに立っていた私の元に歩いてくる。
「ど、どうしたの?」
「そのうちみょうじなまえさんじゃなくなんだからよ、しっかり覚えとけよ、俺が呼んでやったこと」
妙なところで察しがいい私は、銀さんの言葉を即座に理解してしまって、顔に熱が集まるのを感じた。
ああ、やっぱり、坂田銀時が愛しいなコノヤロー。






とろける響きはまるで夢想曲

20160803

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