甘さとひきかえで結構

「ねえ骸くん、聞いてくれる？」

　廃墟にはどこか似合わない、まるで花が綻ぶみたいなその笑顔が覗く。「また来たんですか」と、返すその言葉にわざと呆れを乗せた。
　時々現れる彼女はあの沢田綱吉の友人で、どうしてだか何かと僕に付き纏う。そのめげない明るさは、いっそチャームポイントと言ってあげるべきなのかもしれない。今だって「チョコ持ってきたからそんなこと言わないで」なんて、きらきら笑ってみせるのだから。

「今日は何ですか」

　……それに絆されそうになっている、僕の方も大概だ。ため息まじりに用件を問いかけると、彼女が手元の袋を持ち上げる。かさりと音を立てて、箱を取り出し掲げてみせた。

「えへへ、メルティーキッスだよ」

　ずいぶんと得意げなその返答に、つい笑いがこぼれてしまった。だって、見当違いですよ。僕はチョコレートの種類なんか尋ねてはいないのに。
　不思議そうに彼女は首を傾げるけれど、「仕方ないから聞いてあげましょう」そう口にすると、ローファーが嬉しそうに床を叩く音が近付いてくる。

　きっと、知らないのでしょうね。平凡で柔らかな色を湛えた君の「聞いて」を、紡がれるその言葉たちを。本当は、チョコレートよりも楽しみにしている僕がいること。ええ、まだ知らなくていいですよ。

20201119
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「聞いて」
人生初書きの骸さんでした……！