毎日見ていたのに





遅かった…

気がついたときには

もう

君はこの学校を転校してしまっていた









一昨日

廊下で君を見かけて

君が俺に気がついて

目と目が合って

そっと笑った

ほんの一瞬の出来事だったけれど

俺にとっては一大事で

冷静にさせなくなる唯一の存在







去ってゆく君の後ろ姿をいつまでも見つめた

風に靡く薄茶色の髪

すっと整った涼やかな顔立ち

しゃんとした姿勢に

そこから伸びる白く細い手足

上品な立ち居振る舞い…





窓からの陽の光が

君を包み込み

君を一層輝かしく見せる

目が離せるわけがない……









君と初めて会話をしたのは

いつだっただろうか

といってもお互いをよく知っているわけでもなく

目と目が合えば笑うくらいの距離だったけれど

それでも……







2ヶ月くらい前だったかな

木陰で読書をしていた君の足元に

コントロールを失ったサッカーボールが転がって行ってしまった

それを君はそっと両手に持ち

笑顔で返してくれた

“手に泥がつくから、そのままで”と言ったにもかかわらず

“楽しそうに蹴っているサッカーボールに触れてみたかったの”

そう無邪気に答えた





ちょうど俺たちの間に

大きく風が吹いて

君の髪が舞い上がる

乱れた髪が美しく

その姿に目がそらせなかった





俺はそのまま何も言えず

ペコッと頭を下げるとそのままグラウンドへと戻っていった

自分の変化にも気がつかずに…





それからだ

君が俺の心に棲みついたのは……







彼女が何年何組なのか

廊下を歩いてはいないか

いつもと変わりない校内なのに

いつもと違う自分がいた





彼女を探している





それから何度か廊下で君とすれ違って

同じ学年であったことを知って



それからお互いに目が合うようになって

笑うようになって



それから…





それから……?







それまでだった

俺たちはここまでだった

それ以上お互いの名前を名乗ることもなかったし

話をすることもなかった





笑顔を交すそんな関係





まさか一昨日交した笑顔が最後になるなんて

思いもしなかった…







いや…

“まさか”なんて言葉はない

それはいいわけにしか

結局自分を慰めるだけの都合のいい言葉にしかならないね

何も気がつくことの出来なかった自分が事実







それでも

何か君の足跡がわかればと

君のクラスへと行ってみたけれど

誰も転校の真相も今日転校することも

知らなかった





本当に

誰にも告げずに君は去って行ってしまった

一昨日の笑顔の中に

君のどんな思いがあったのだろうか







信じるだけで願いが叶うなんてこと

あり得ないのはもうよくわかっている

ときには自分で動くことも必要だ

だけれど

多分それは君は望んでいない

誰にも言わなかったということが

君からのメッセージ









だから

あり得ないほど困難な確率だけれど

君にまた出逢えること

信じていていいかな

あり得なくても信じるしかいられない

そう自分が強く願っている







さよならは言わない

またいつか出逢える君への可能性を信じてる

街中で君の姿を探すくらいは許されるよね







また次に出逢えたときには

俺の気持ちを

必ず君に伝えるから







“君が好きだ”







俺は足元のサッカーボールを

思いっきりゴール目指して蹴った



ボールは空に大きく弧を描きながら

ゴールの

そのまた向こうへと飛んで行った…












〜Fin〜



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -