瞬くんの画廊を覗きこんだ瞬間





目に飛び込んできたのは…







埃っぽい部屋の中に


無造作に置かれた無数の絵画。




綺麗な風景画から人物画

静物画に、油絵に

抽象画なんかもある。







どれもとても綺麗だった。

とても上手く心を惹きつけるものだった。







だけど…

だけれど……






描かれた時は息を吹き込まれていたであろう作品たち


ここでは
みんな息絶えていた……






埃にまみれて


余計に生を失っているように見えた。







綺麗なのに

切なくて

悲しくて

孤独で

涙が体の奥底から零れてくる。







ここに

瞬くんの心そのものをみた気がした…





瞬くんの描く絵は瞬くんのその時々の気持ち

感情

心そのものだ…







それを生かすことなく

ここへすべて押し込めている。






心を殺している…










カタン。

背後で音がした。

ハッとして後ろを振り返る。




「お姉ちゃん、そこでなにやってるの?」

そこには驚いた顔の瞬くん。

でもすぐに表情はなくなっていた。





「瞬くん…ご、ごめんね。勝手に入っちゃって…」

「…いいから。ごめん、お姉ちゃん出てくれる?」

瞬くんは少し怒ったように私の腕を引っ張った。



見られたくないものを見られて

きっと早く私をここから離したいんだと思う。





でも

ここで私がこのまま出て行ったらそれっきりになってしまう…

そう思った。






「しゅ、瞬くん!わ、私、瞬くんの絵が見たい。邪魔をしないから、絵を見せてもらえないかな?」



瞬くんの動きが止まる。





「…なんでそんなに絵が見たいの?」

「え…瞬くんの描く世界がどんな感じなのか知りたいなと思って…」





本当は瞬くんを知りたいから…







瞬くんはフッと口で笑った。



その瞬間

私の背中に緊張が走る。







「…お姉ちゃん。ここに在る絵はただのガラクタだよ。見たって何にもない」

「…そんなこと……」



「…要兄ちゃんにでも言われた?僕と仲良くしてあげてって」



恐ろしいほど大人びた表情の瞬くん。





「違う!そんなこと言われてないよ。今までのことだって、ただ私が瞬くんを知りたいだけで…」





その言葉に無表情の瞬くんが答える。

「そういうの…」

「えっ?」



「僕、必要ないから…」



目がどこも見ていない。

私は何も言えず凍りつく。





瞬くんのその顔は

マネキンのように美しく

そして冷たかった…





パタン。



画廊の部屋の扉を閉めると瞬くんは

私を一瞥もせず行ってしまった。













トンッ

私は壁に背中から倒れこみ、



一気にその場に崩れ落ちた。











余計なことを

してしまったのかな…









瞬くん…






瞬くん…









落ちては

また溢れてくる涙。









自分が息を吹き込んできたものたちをガラクタなんて

そんな風に言わないで…


瞬くんの気持ち自体をガラクタと言っているみたいで…





もしそう思ったとしてもガラクタだって

価値のないものじゃないんだよ

その中で輝くものはある…







どうか

どうか





すべてを諦めたような

そんな目をしないで……









開きかけたと思っていた扉は




再び固く閉じられてしまった。










うわあぁぁぁぁぁっ…






私は心の中で叫び







その場で泣き崩れた。










→4へ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -