愛想笑いが得意な僕の彼女は今日もお得意の『笑顔』を周りに振りまいていた。
大抵愛想笑いのときに彼女は目を細めることがない。相手に気付かれない程度に細めるよう無意識にコントロールしているが、僕にはわかってしまう。





彼女の愛想笑いと彼女の本当の笑顔の狭間。





彼女はきっと怖いのだ。
人が自分から離れて行ってしまうのではないか、という不安。
それによって自分が孤独になってしまう、傷付くかもしれない恐怖。

だから愛想笑いで相手を繋ぎ止めようとする。





その癖に。その一方で。
彼女は人と交わることが苦手だ。
独りでいることが楽だと思っている。だから構わないでと、私に侵入しないでと、愛想笑いでバリアを張る。





「怖いなら関わらなければいいんじゃないの?僕みたいに。」

以前にこんなことを僕は彼女に訊いてみたことがある。
そうだ、意外と簡単なものだ。
嫌なら触れなければいいだけのこと。

しかし彼女の応えは僕のものとは異なっていた。
小さい声でポツリポツリ紡ぐその応えに僕は堪らず、その小さな彼女の肩を抱き締めた。

「……私の評価は……自己価値は……人からの反応で決まるの……。」

そこに彼女はいるのに、彼女の中に彼女がいない気がして、それでも彼女を繋ぎ止めたくて抱き締める腕に力をこめる。
『瞬くん、痛いよ。』なんてか細い声を聞いた気もするけれど、何故か力を緩めることが出来なかった。

僕の体がかたかたと震え出す。





なんで?なんで?
なんでこんなにも僕まで怖くなる?





「……瞬くん?」

心配そうに覗き込まれた彼女の瞳に映る自分の姿を見て直感した。

ああ、僕は君の中に僕も一緒に見ていたんだ、と。
君が怖いと思うものは僕が怖いと思って当然なんだ。





僕の評価は絵で決まる……。





「……ハハッ、今更おかしい……。」
「瞬、くん?」

不思議そうな顔をする彼女を腕の中に閉じ込めたまま、いつの間にか僕の頬は濡れていた。
彼女は理由も訊かずにその滑落した涙の跡を細い指でなぞりながら、ふと笑った。

ああ、君の本当の笑顔だ。
彼女の笑う瞬間はいつだって僕が思わず弱さを零してしまったときだ。

励ますために笑うのか。
自分と同じ弱さを知っているから安心して笑うのか。





僕は笑う彼女の頬に自分の頬を寄せた。

「もっと笑って、志乃ちゃん。」
「く、擽ったいよ。瞬くん。」
「いいから笑って?」

擽ったそうに目を細めながら、彼女はクスクス声を上げて笑う。
そんな頬に僕はさらに頬を擦り寄せた。
するするっと滑る肌が心地好い。

頬と頬をくっつければその薄い肌からさらに伝わるんだ、僕らお互いの弱さもその安心も……。

頬も胸も……。
熱い……。





頬笑み

(一緒に同じ笑みを共有しよう。)







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