今から三年前…。

彼女は僕の兄、雅季兄さんが好きだった。
別に付き合っていた訳ではない二人。それでも、近くで見ていた僕は知っていた。

お互いがお互いを想っていたことを。
また僕も彼女に惹かれていたから…。





しかしタイミングってどうしてこんなにも残酷なのだろう。
僕が言うのか、と思われてしまうだろうが、僕は二人に上手くいって欲しかった。
勿論、雅季兄さんに怒りにも近い嫉妬を静かに抱いたこともある。
泣く彼女を何度この腕の中に収めてしまおうかと手を震わしたことか。

でも二人の想いが繋がることはなかった。
詳しくは知らないけれど、想いを伝えるタイミングがずれてしまったのだ、と言うことは傍から見ていてもわかった。





二人が結ばれなかったとわかった瞬間、何故か僕の中で何かがぽっかりと穴を開けてしまった。
幸運だとは思わなかった。思えなかった。

だって。
得たものは毎日涙で頬を濡らす彼女の横顔だけ。

テラスが隣同士で僕はよく深夜に泣いている彼女を想っては自分も胸の中で泣いていた。
そして月日と共に僕はカーテン越しから窓越しへ。窓越しから窓を開け、窓から外へと出るようになった。
その頃には彼女の涙は溢れ出る、から、一粒零すくらいに頬を濡らしていた。





「いつもありがとう、瞬くん。ずっと見ていてくれていたでしょう?」

ようやく夜空から僕へとその色素の薄い茶色い瞳を向けて微笑んでくれた。
夜風に同じ色の髪がさらさらと靡く。

それからだった。
僕が彼女のテラスへと降り立ち、一緒に夜空を眺めるようになったのは…。
彼女への想いが日に日に増して。彼女が雅季兄さんのことを好きだったということすら意識の傍らに追いやり、無意識化をし、僕は彼女に初めてキスをした。





ちょうど三年前のこと。
今彼女は僕の隣に自然といる。彼女の瞳が雅季兄さんにいくことも、雅季兄さんのことで泣くことも、もうとうになくなっていた。
彼女の瞳に映っているのは僕であると主張する自信もある。

確かに彼女は僕の隣にいる。これまで幾度となく唇を重ね、この腕の中にその細い体を閉じ込めてきた。

だけれど、彼女の心にはちゃんと僕がいるだろうか…。





抱き締めて、キスをして、『好きだよ』と言葉にして、また抱き締めて…。それを繰り返して来た。

…それから?
…それから僕らはどう発展して行けば良いの?

想いは変わらない。
でも伝え合い方は大人になるにつれ変化を伴う。僕ももう可愛い瞬くんではいられないんだ。

そういう理由で僕を選んだとしたのなら?
いや、彼女はそんなことはしないと。そういつも隣で見ている僕は言える。
けれども、もっと君を知りたいと思っているのは僕だけだったら。
可愛い瞬くんの幻想を壊し、君との距離が離れてしまったら。

どうしたらいい?





僕は彼女の部屋の前に立ち尽くす。
この扉の向こうには君がいる。
扉をノックすれば、もっと愛し合えるか、距離が離れて行くか。
答えは二つに一つ。

でもね、





coward rabbit

(二兎追うものは、一兎をも得ず、なんて言うけれど。僕は君なら何でも欲しいし、逃したくないんだ。限りなく…。)





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