空が青く、蒼い。
風は柔らかく凪ぐ程度でフィールドでは昨夜に降った雨の影響か、燦然と照らす真っ白な太陽のお陰で蒸し返している。

むしろ地上よりも空中の方が涼しいのではないかと思った。

そんな蒸すグリーンの中で白と黒を縫い込んだ鞠を部員たちは必死に追い、追っては奪い、奪っては遠くの味方へと送り蹴っていた。
木陰に避難していても滝のように汗が流れてゆくのだ。この芝を陰のないまっさらな太陽の光をたっぷりと受け、それでも懸命に駆ける彼らは何を思うのだろうか。

彼らの汗なのか、それとも彼らの青春なのか。
木陰の下にいる私の網膜に映るのは紛れもなく、キラキラと輝く世界と真剣な眼差し、そして笑顔だった。





──私がこの西園寺学院のサッカー部のマネージャーを志願したのは中学生の頃に嫌々友達に引き摺られて連れて来られた西園寺学院のサッカー部の試合を見たからだ。
友達には高等部にお目当ての先輩がいて、そちらが大方目的であったのだが、私は違う何かに目を奪われたしまった。
いや、違う。奪われたのではなく私の胸が鷲掴みにしてしまったのだ、こんな高々芝の上を駆け回りボールを追っ掛けるだけだと興味の欠片もなかった目の前の光景に。

ルールは単純だ。敵のゴールにボールを入れれば得点となる。前半、後半で合計点が高いチームが勝利することになる。

しかし、そのゴールへ、シュートへ至るまでにその場、その瞬間に生み出されるストーリーにとても引き込まれてしまったのだ。





それで今に至る。
マネージャーが何故私今一人であるのか。
それは部員目当てで入った新入生は思いもしなかった大変な雑用やスケジュール管理、遠征の付き添いやらで一気に着いて来られず、入部して2ヶ月もしない内にほとんどが退場して行った。

残った子もいるが、その子はつい先日、熱中症を起こしてから、仕舞には夏風邪まで立て続けに拗らせてしまった。
だから今マネージャーは私一人なのである。





ザッザッザッ。
ガッ!
『上がれ、上がれー。』
『ナイスカット!』

私はこのチームの音を聴くのがとても好きだ。気持ちが高揚する。たとえ試合でなくても、ボールが紡ぐ人間の糸は毎日作り出される。
このためならマネージャーの仕事なんてなんてことない。
私は鼻歌交じりで炎天下の中駆け回る部員たちのドリンクを用意することにした。

粉末スポーツドリンクを幾分か薄めて作り、部員一人一人が使うボトルに予めカットしていたレモンを落としてゆく。爽やかなレモンの香りが鼻腔を擽った。
部員たちは一気に寄って集って己と先に自分のボトルに手を伸ばすだろう。そして時間を掛けて作ったドリンクは僅か数十秒で彼らの胃の中へと流れてゆくのだ。

でもそれで構わない。むしろその方が気持ちが良い。乾き切った体に潤いが巡る瞬間はどんなに至福の時だろう。
そんな部員たちの笑顔を眺めるのも私は好きだった。





「休ー憩ー!」

部長の西園寺くんの声がグラウンド一面に響いた。汗だくになった部員たちが案の定タオルとドリンクを求めてどっと押し寄せる。

そんな様までキラキラしている。なんでなのだろう。
ここまで夢中になる人たちが輝いているのは……。





「……眩し……。」

──そして届かない、私は見ているだけ。でもそれでいいと納得したのは自分。





私は木陰から出てベンチの側で空を見上げて呟いた。片目すら開けていられない程の強い光。
そしてさらに部員をキラキラと輝かせる光。

つっ、とこめかみから温い汗が伝った。そう言えばTシャツも汗でびっしょりだった。一応下着が透けないようにと先代のマネージャーからは黒や紺などの濃い色のTシャツがマネージャーのユニフォームとなっている。

その時だった。背後からバサッと何かを誰かに被せられ、飲みかけのドリンクボトルが私の目の前ににゅっと伸ばされる。
振り向けばむっつり顔の西園寺くんだった。

「この間緑川が熱中症で倒れたばかりだろーが。自分にも気を配れよ、お前もサッカー部所属なんだからよ。」

そして氷でクールダウンしたはずの彼の顔がほんのり赤く染まっているのに気が付いた。
照れてる。不器用。でもちゃんと一人一人を見ている。

私は素直にそのタオルで汗を拭って、二口だけドリンクをもらった。こんなにスポーツドリンクって美味しかったっけ。

「どうもありがとう。」
「あ、そのタオル新しいやつだからな。ちゃんと洗って返せよ。」
「……うん。」

私の頭に被せられたタオルでわざとらしくくしゃくしゃっとその大きな手でさせると、逃げるように蒼井くんのところへ行ってしまった。





照れてる。不器用。でもちゃんと一人一人を見ている。

さっき考えた西園寺くん像を口の中でもう一度だけ繰り返す。すると途端に彼の背中が何故かキラキラとしている部員の中から際立って輝き始めた。

──ど、くん。
今まで聞いたことのない音が確かに胸の底で揺れたのを感じる。
その背中が余りにも眩しいから、振り向いた時に合わさった視線には眩しくて真っ白になった。

ただわかるのは私の高い胸の音と熱い頬。
私はそれを隠すためにタオルにすっぽりと顔を埋めた。

あ、お日様香りがする……。





私は今日初めての体験をしました。

太陽の君にい焦がれ







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